深夜ドラマ「おいハンサム!!」 主演「吉田鋼太郎」だけではない話題作と言われる理由

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人気作品から傑作を抽出でドラマ化

「おいハンサム!!」の原作者は漫画家・伊藤理佐氏(52)。夫は「伝染るんです。」で知られる同じく漫画家の吉田戦車氏(58)である。伊藤氏は主に実体験に基づくエピソードをコミカルに描く人だ。

 今回の連ドラは伊藤さんの作品「おいピータン!!」「わたる世間はオヤジばかり」などの中から傑作を選び、それに基づいて作る。いずれも人気作品である。

 デビュー作は1987年の「おとうさんの休日」。まだ18歳だった。その後、たちまち売れっ子になり、2006年には「女いっぴき猫ふたり」など一連の作品で手塚治虫文化賞の短編賞を受賞した。活躍の場は漫画界にとどまらない。朝日新聞でエッセー「オトナになった女子たちへ」を隔週連載中で、これも評判高い。

 人気の理由の1つは自分を飾らず、身の回りの出来事や本音をストレートに表すところ。それが人間の実像のリアルな描写につながっている。

 身内のことまで包み隠さず描く。デビュー作「おとうさんの休日」では父親をネタにした。2010年に女児を出産すると、吉田氏と育児ネタの奪い合いになったそうだ。

連ドラ化不可能とされた作品も手がけたプロデューサー

 監督、脚本、プロデュースを兼ねるのがフジ出身の山口雅俊氏(62)。フジの人間のみならず、ドラマ関係者なら誰もが才能を認める人である。

 フジ時代には木村拓哉(49)主演の「ギフト」(1997年)、深津絵里(48)主演の「きらきらひかる」(1998年)、故・竹内結子さん主演の「ランチの女王」(2002年)などのヒット作を手掛けた。

 圧巻は「実写化は不可能」とされていた漫画の連ドラ化に次々と挑み、成功させてしまったところ。中でも放送担当記者たちをアッと言わせたのが「ロング・ラブレター~漂流教室~」(2002年)の連ドラ化だ。

 原作は漫画家・楳図かずお氏(85)の名作だが、スケールとテーマが大きすぎるし、特撮技術も今ほど発達していなかったため、連ドラ化は不可能だと誰もが思っていた。ところが山口氏は見事にやってのけた。

 舞台を小学校から高校に移すなど原作を大幅に改変したものの、希望と絶望、愛と憎しみなどをテーマにしたところは一緒。また、原作も描いていた環境破壊への危惧をより鮮明にしてあり、今になって思うと、鋭かった。

 2005年にフジから独立した後の代表作はTBS系の連ドラと映画の「闇金ウシジマくんシリーズ」(2010年~16年)。演出と脚本、プロデュースを兼ねた。

 この作品にも驚かされた。やはり原作は漫画であるものの、その内容はダーク。にもかかわらず、ドラマと映画は明るかった。

 主人公・ウシジマくんは「10日5割」の違法利息で金を貸す闇金業者で、その客はギャンブル依存症の主婦や分不相応にキャバクラ通いを続けるサラリ―マンたちだから、明るい作品になるはずがないのだが、配役の妙や筋書きの工夫により、暗さを吹き飛ばした。

 ウシジマくんにはそれまで汚れ役のイメージが薄かった山田孝之(38)を配した。その忠実な部下役には、やべきょうすけ(48)を起用した。この部下が原作と違ってコメディリリーフ役で、間抜けな言動を繰り返し、観る側をホッとさせた。

 暗い作品にならなかった決定的な理由はウシジマくんが本当のワルではなかったところ。真面目に働き始めた客の利息は割り引く一方、女性の客を食い物にする男たちは次々とぶちのめし、痛快だった。やはり原作を改変したが、それでも味わいは壊さなかった。

 吉田鋼太郎はアドリブを差し込むのが得意な人として知られるものの、この現場では控えているという。山口氏の演出と脚本を信じているからだ。

 話題作になりそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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