ロックダウン下の「西安市」で食料不足を訴える住民たち…中国発の食糧価格高騰に要注意

国際 中国

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 国際情勢のリスク分析を行う米コンサルタント会社「ユーラシア・グループ」は1月3日、今年の世界の「10大リスク」についての年次報告書を発表した。1位に新型コロナウイルス感染を徹底的に封じ込める中国の「ゼロコロナ」政策の失敗を挙げた。中国のゼロコロナ政策はパンデミックが始まった時点では非常に成功したかのように見えたが、感染力の強い変異型(オミクロン型)の出現で今後困難に直面するとの想定だ。中国がオミクロン型の流行を抑制できなければ、再び厳しい封鎖措置(ロックダウン)を採らざるを得なくなり、その結果世界のサプライチェーン(供給網)が再び大混乱に陥るため、各地で政情不安が発生する恐れがあると警告を発した。

 ユーラシア・グループが想定する事態が現実になりつつあるのは陝西省西安市だ。昨年12月上旬から始まった新型コロナの累積感染者数は1600人を超えた(1月4日時点)が、依然として流入経路が把握できていない。昨年末からロックダウンなどの厳格な措置が実施されているが、中国の防疫専門家たちは「今後も増加の勢いは続く」と悲観的な見方をしている。中国当局は認めていないが、西安市では感染力が高いオミクロン型が流行している可能性がある。

 ロックダウンが実施されたことで西安市で活動している企業活動にも支障が生じ始めている。米半導体大手マイクロン・テクノロジーは昨年末「データセンターなどで使われるDRAM型メモリーチップの出荷に遅れが出る恐れがある」ことを明らかにした。世界全体で問題になっている半導体不足がさらに深刻になってしまうのかもしれない。

荒廃する耕作地

 さらに気になるのはロックダウン下の西安市で食料不足を訴える住民の声が高まっていることだ。人口約1300万人の西安市では食料などの必需品が調達できずに助けを求める市民の投稿が相次ぎ、当局も食料不足の実態を認めざるを得なくなっている。直接的な原因はロックダウンであろうが、西安市は昨年9月末に起きた深刻な水害により食料事情が悪化していたことも見逃せない。

 西安市では同時期にネズミが媒介する「流行性出血熱」が例年になく大流行しているが、「水害による耕作地の荒廃でネズミと人が接触する機会が増加したことが要因ではないか」との指摘が出ている。

 耕作地の荒廃は西安市の近郊にとどまらない。昨年12月25日付サウスチャイナモーニングポストは「『地球温暖化の影響で2016年の中国の害虫発生件数が19700年に比べて4倍に増加した』とする内容の論文を紹介し、害虫の被害は今後も深刻になる一方だ」と報じた。害虫被害の深刻化に地球温暖化が関与しているのはたしかだが、農村部における深刻な人手不足も関係しているのではないだろうか。

 改革開放後の中国では都市化が急速に進み、都市人口は今や全人口の50%を超えた。大量の農民が都市へ出稼ぎに行って「農民工」として就労したからだ。

 冷戦終了直後の中国には「無限の労働力がある」とまで言われたが、2010年代後半に入ると中国でも労働力不足が表面化した。現在の20~30代の中国の若者は農村部でもきつい仕事を敬遠する傾向が強く、サービス業での雇用が増えていることもあって、農業従事者の確保が極めて困難になっている。これをダメ押ししたのが少子化だ。出産を奨励されているのにもかかわらず、出生数は増加しないどころか減少するばかりだ。最近の世論調査によれば、中国の若者の約8割が「子どもを持ちたくない」と回答している。

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