京王線内の殺人未遂事件で注目された鉄道車両内の安全と「貫通路」について考える

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スムーズに逃げられるかもしれない新車

 先頭車両と連結する部分だけ貫通路の幅を変えてもいいではないかと思われるかもしれない。しかし、貫通路には「貫通ほろ」といって貫通路の外周を覆うポリウレタン製などの囲いが必要だ。また、約50cm離れた車両と車両との間を足を踏み外さずに行けるよう、お互いの車両から「さん板」という金属製の板を架け渡し、2枚のさん板どうしを真ん中で重ね合わせている。

 場合によってはさん板とさん板との上に渡り板という別の金属板を置く例も多い。貫通ほろや、さん板は幅が異なるとスムーズに連結できず、特にカーブを曲がるときに安全面も含めて問題が多い。

 そうは言っても、大都市の通勤電車ではそもそも先頭車が列車の真ん中に連結されるケースは減り、連結されたとしても貫通路を使わない車両も多い。となると120cmは難しいとして、幅70cm程度の貫通路をもう少し広げてほしくもなる。

 そうした要望が多かったのかは定かではないが、近年になって副都心線や有楽町線、日比谷線、千代田線や半蔵門線に導入された東京メトロの新車は幅90cmの貫通路を備えてデビューした。東京メトロの新車で興味深いのは貫通路に付いている引き戸を開けると、これから向かう隣の車両の引き戸も一緒に開くという仕組みが採用されている点だ。

 引き戸どうしがリンクでつながっているからで、しかも軽い力で開く。扉自体も全面ガラスとなっていて、見通しがよいのも見逃せない点だ。2列になって避難するような機会に遭遇しないに越したことはないが、この車両であればスムーズに逃げられるかもしれない。

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

デイリー新潮編集部

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