京王線内の殺人未遂事件で注目された鉄道車両内の安全と「貫通路」について考える
扉が開かず、窓から逃げ出す
新しい年となる2022年の鉄道界は、2021年秋に発生した事件の余波に引き続き揺れている。10月31日の晩、京王電鉄京王線の特急列車の車内で若い男が突然、刃物で見ず知らずの人に切りつけた挙げ句、火を放って乗客を混乱に陥れた事件は車内の安全について波紋を投げかけた。そこから浮かび上がった鉄道車両の「貫通路」の問題について、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が解説する。
炎の上がった車内で逃げまどう乗客、やっとの思いで駅に停車したと思ったら扉が開かず、窓から逃げ出す――。乗客が撮影した動画はテレビで何度も放映され、人々に恐怖を植え付けた。と同時に残念ながら模倣犯も生み出してしまっている。事件から1週間余り後の11月8日には男が九州新幹線の車内で放火するという事件が発生した。
京王線での事件との関連は、容疑者が重篤な状況であるために不明ながら、12月17日に大阪市北区のビル内の心療内科クリニックで起きた痛ましい放火事件もことによると影響を与えてしまったのかもしれない。
筆者は京王線での事件で鉄道車両の車内での安全対策について多数のマスメディアで解説させていただいたなか、もしもそうであるとすれば、強い無力感を覚えてしまう。
渋滞が発生する貫通路
乗客が撮影した動画には今日の鉄道が抱えている問題点が多数写り込んでいる。最大の問題は駅に着いた特急列車の扉がすぐに開かなかったことであろう。この件についてもいずれ触れるとして、特急列車が走行中の車内でも大きく取り上げなくてはならない問題点が見受けられた。
それは車両と車両とを連結した部分の通路となっている貫通路だ。貫通路の問題について筆者は11月29日に放送されたNHK総合テレビ「あさイチ」でも指摘させていただいた。
日々鉄道、それも通勤電車を利用する際に貫通路を通るという人はどのくらいいるであろうか。自分が乗った車両が混雑しており、隣の車両に移ろうかというときくらいしか用はないであろう。大多数の人たちは自分が乗った車両から降りるので、他の車両に移る必要はない。
しかし、京王線での事件のように車内で火災が発生したら隣の車両へと急いで避難する必要に迫られる。乗客が撮影した動画では2列になって車内を逃げまどう人々の様子が映っていた。だが、貫通路の幅は狭く、ここで渋滞が発生する。しかも、貫通路にはわずかながらも段差があり、つまずいて転んでいる人もいた。
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