二人の「藤井聡太キラー」が語る攻略法 「あえてAIとは別の手を指す」
伏してなお動く指
続いて、
「私が勝てたのには“理由”がありました」
と振り返るのは、深浦九段。これまでタイトル獲得3期を誇る強豪で、藤井四冠とは4回対戦し、3勝1敗。21年は2戦2勝で、直近では10月、NHK杯将棋トーナメントで勝利を収めている。
「この時は『雁木』という戦型を取ることを決め、事前にAIを使って徹底的に研究した。その上で対局に臨むと、藤井さんはまさにAI通りの“最善手”を指し続けてきたのです。そこで術中にはまらないよう、途中であえてAIとは別の、これまで指されたことがない手を指しました。それでも藤井さんは“最善手”を指し続けてきて驚いたのですが、そうした変化に対応するためか、藤井さんは持ち時間が次第に少なくなり、隙が生まれた。そこを突くことができたのです」
逆に言えば、完璧だからこそ、生まれた陥穽とも考えうるのである。
この対局は全国に放送された。投了後、藤井四冠が机におでこを付けて突っ伏すシーンが話題になったが、
「私も動揺しました」
と、深浦九段が振り返る。
「解説者が現れるまで、2~3分間うなだれっぱなし。感想戦やってくれるのかな、って。でも、後でテレビを見ていた知り合いから教えてもらったんですが、あの時、藤井さんは突っ伏しながら指だけを動かしていたとか。彼が対局後、頭の中で局面を振り返るときによく使う指の動きそのものだったそうです。ですから負けて悔しかったというより、前向きに局面を振り返るために、目の前の情報を遮断して自らに反省を促している時間だったのかな、と。全国放送にもかかわらず、恥じらいもなくそういった側面も見せることができる。将棋の真理を探究しようという姿勢が非常に強いんですね」
将棋一筋の姿がやはり垣間見られるのだ。
藤井全盛の時代に、貴重なストッパーとしての役割を期待される二人の棋士。今後対局の機会があれば、どう挑むのか。
「今は強すぎるという印象がありますが、藤井さんといえども、10割勝っているわけではありません。試行錯誤の余地は必ずあるはずです」(大橋六段)
「どんな相手にだって勝ちたいし、藤井さんに勝てば注目も集まる。ともすれば若手棋士の中には、やる前から藤井さん相手なら負けても仕方がないという雰囲気があるようですが、自分の場合、対戦はむしろ喜びです」(深浦九段)
新年早々には、五冠をかけて王将位に挑む藤井竜王。他方で、二人の「壁」をどう克服するかも要注目である。
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