キヤノン「御手洗冨士夫」は二足の草鞋で失敗 3度目の社長復帰も次のなり手がいないという惨状

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後継者を育てなかった冨士夫

 次の時代を担う「ポスト冨士夫」の後継者の育成は最重要課題だ。

 少し厳しい言い方になるがお許しいただきたい。権力を手放したくなかった冨士夫は、後継者を育てることをおろそかにしてきた。そのためキヤノンは「社長のなり手がいない」という惨状を呈している。

 経営の最前線に復帰した冨士夫には往年の社長時代の輝きは戻ってこなかった。経団連会長を退くと同時に完全に引退していたら、名経営者として後世に名を残しただろう。

 冨士夫は2021(令和3)年9月、86歳になった。時代の急変についていけなくなっているのではないのか。売上高5兆円を花道に後進に道を譲る目論見は絶望的となった。

 エクセレント・カンパニーだったキヤノンの低迷の根本的原因は、冨士夫の長期体制にある。かつて我が世の春を謳歌してきた事務機器メーカーの雄は、IT化に伴う時代の急激な変化に直面し、冬の時代を迎えた。御手洗毅がキヤノンを創立した当時の若さや自由闊達さは、残念ながら今のキヤノンにはない。

安倍首相とのゴルフ

 一つ書き忘れたことがある。キヤノンは経営に政治を絡めない社風だとしたが、安倍晋三首相の時代に財界人とゴルフをする時のメンバー選定の“窓口”は冨士夫だった。「頼まれると喜々としてメンバー選びをした」(永田町の住人)ことで知られている。

 2015(平成27)年5月のゴールデンウイーク中にも、御手洗冨士夫、榊原定征・経団連会長(当時)、渡文明・JXホールディングス(現・ENEOSホールディングス)元会長のメンバーで、安倍首相とゴルフをやっている。渡は新日本石油の会長・社長を歴任。2020年12月24日、84歳で没している。

註:この記事は有森隆氏が上梓した、以下6冊の書籍の内容を踏まえて執筆された。
▽『経営者を格付けする』(2005年8月・草思社)
▽『仕事で一番大切にしたい31の言葉』(2011年6月・大和書房)
▽『創業家物語』(2008年7月・講談社)
▽『創業家物語――世襲企業は不況に強い』(2009年8月・講談社+&文庫)
▽『創業家一族』(2020年2月・エムディエヌコーポレーション発行、インプレス発売)
▽『プロ経営者の時代』(2015年8月・千倉書房)

有森隆(ありもり・たかし)
経済ジャーナリスト。早稲田大学文学部卒。30年間、全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書に『日銀エリートの「挫折と転落」――木村剛「天、我に味方せず」』(講談社)、『海外大型M&A 大失敗の内幕』、『社長解任 権力抗争の内幕』、『社長引責 破綻からV字回復の内幕』、『住友銀行暗黒史』(以上、さくら舎)、『実録アングラマネー』、『創業家物語』、『企業舎弟闇の抗争』(講談社+α文庫)、『異端社長の流儀』(だいわ文庫)、『プロ経営者の時代』(千倉書房)などがある。

デイリー新潮編集部

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