人材流出で技術が中国、韓国に漏洩…「日本製半導体」が凋落した理由とは
“世界標準”を巡る争い
ちなみにTSMCは現在、世界一の先端ロジック半導体の微細技術と大量製造能力を併せ持つ、台湾を代表する世界的企業に成長した。
バイデン民主党政権の現在、米国議会でも、半導体の自国生産を促進する法案である略称「チップス・アクト」の予算付け作業が行われている。世界的なキーワードは「内製化」、つまりは半導体の国産化だ。
一方の中国は15年に制定された「中国製造2025」で、半導体の70%~の自給率拡大を目指している。
「いま世界はDX、デジタル社会の到来で、デジタル情報を人権やプライバシー、民主主義に生かす自由主義陣営と、中国のように国家のシステム統治に利用するという全体主義陣営に分かれて、“世界標準”が激しく争われています。その中で半導体は、例えばコンマ秒単位で相手の信用度を測ったスコアをデータによって高度な計算をし、解析する具体的な仕事を果たしている。だから、DXの進化と、半導体の開発競争の進化とは、表裏一体の関係なんです。今回の新型コロナの蔓延で分かったことは、国内の製造拠点がなかったために、サプライチェーンが不足したということ。日本の半導体も上流から下流まで、前工程から後工程までを国内で押さえておくことがベストです」(甘利氏)
ここに至って「日の丸半導体」は、かつてのような「産業のコメ」ではなく、「国際連携」によって日本を強化する「情報インフラ」と化した。そして現在では「世界的なグリーン政策とデジタル政策で、30年間で弱体化した日本の半導体産業がゲームチェンジする。今後積層化や光電融合デバイスなど新技術で日本にチャンスが再度到来するという期待論がある」(半導体アナリスト)という。
ウィン=ウィンの国際連携を
具体的な動きとして、国内でもTSMCは日本政府から約4千億円の補助金を受け、ソニーグループと共同での熊本工場の建設が決定。ほかにも現在、東大や産業技術総合研究所(産総研)と共同開発を行う計画が進行中である。
産総研に聞いてみると、安田哲二エレクトロニクス・製造領域長がこう答えた。
「具体的な研究開発の内容も、国際連携では典型的なウィン=ウィン関係になっているものと思っています。例えば、最先端のチップ・オン・ウェハ・オン・サブストレートと呼ばれるチップの3D3層構造のパッケージング実装まで行う予定になっています。サーバーなどの高性能計算向けなどのパッケージング技術においては、TSMCは世界でトップクラスです。産総研との共同研究では、(高性能計算などを行う)ロジック系の半導体に搭載される半導体の後工程の開発を一緒にやるということで、産総研は新材料や新プロセス開発を担当し、インテグレーションと呼ばれる(半導体材料や部品を)統合していくところをTSMC社が担当する。この最先端のインテグレーション技術は日本企業が持っていないのです。日本に欠けているインテグレートの部分を国内で一緒にやることは大きなメリットがあります」
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