「正月を不倫相手と過ごしたい」夫たち 密会に成功も、自宅に帰って妻にバレた“致命的なミス”

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そしてすべて失った

 振り切ってホテルに戻ったが、真智子さんは何も言わない。隆治さんは苦笑いするしかなかった。

「こんなことになるとは思わなかった。嫌な思いをさせて申し訳ないと言うしかありませんでした。真智子は、『私、帰りましょうか』とせつないことを言うんですよ。いや、僕が愛しているのは君だと、流れで言ってしまった。すると真智子の目がキラッと光ったんです。『あなたを奪い取りたい』と抱きついてきました。そうか、そういう選択肢もあるんだと初めて思いましたね。子どもがいないし、妻はバリキャリだし、離婚することもできるんだと。きみが本気なら僕は離婚するよと言いました」

 真智子さんは泣いて喜んだ。それからの数日間はフィレンツェで、さらに情熱的な時間を過ごしたという。年越しも一緒にした。

「ところが帰国して自宅に戻ると、すでに帰っていた妻が『私は別れないから』と。自宅もきみのものにしていいし、オレは何もいらないからと言うと、『何を言われても別れない』と」

 さらに急転直下、真智子さんに連絡をとろうとすると電話番号が変えられていた。

「何が起こったのかわかりませんでした。会社に電話をすると彼女は、『ごめんなさい、私、どうかしていた』と別れを告げられました。意気消沈して自宅に戻ると、妻が『離婚するわ』と離婚届を突きつけてきた。もしかすると、真智子から妻に別れますと報告があったのかもしれません。だったら自分も別れようと妻は思ったんじゃないか……」

 結局、彼は妻も真智子さんも失った。あのとき、家のパソコンから旅行の予約をしなければバレなかったはずなのにと、どんなに悔やんでも悔やみきれなかった。

 ただ、あの時点では彼自身、真智子さんと恋人同士になれるかどうかはわかっていなかった。だから「不倫旅行」にならずに帰国する可能性もあったわけだ。もちろん、妻から見れば関係の有無にかかわらず、海外にふたりで行った時点で「アウト」なのかもしれないが。

「4年たった今、あの一件は何だったのかと考えることはありますね。妻とはいい夫婦だったと思うんですよ。お互いに仕事を最優先させていたけど、時間が合えばよく一緒に食事にも行ったし朝まで話すこともあった。でも妻にとっては、僕はあの程度のことで失ってもいい相手だったんでしょう」

“あの程度”のことだったかどうかは妻に聞かなければわからない。信じていたからこそ、手ひどい裏切りだと思ったかもしれない。

 今も正月になると、あのフィレンツェの墨絵のような朝靄と妻の泣きそうな顔を思い出すと隆治さんはせつなそうに言った。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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