『ソロ活女子のススメ』著者・朝井麻由美が昔食べていた「チリ産の茶色いウニ」の味を忘れられない理由

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月に1度の「祖母とウニを食べる日」

 テレビドラマ化でも話題となった『ソロ活女子のススメ』などの著書で人気を博すコラムニストの朝井麻由美さん。「二軒目どうする?」(テレビ東京系)にも出演する彼女の愛するグルメと、そこに眠る温かな思い出。

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 大好物のウニをお取り寄せして食べるとき、祖母の顔を思い出す。かつて月1で近所の祖母の家にひとりでお昼を食べに行っていた。携帯電話を持つようになった高校生の頃からだったかと思う。祖母はメールを覚え、私とやり取りを始めた。食卓の横に鎮座するパソコンは、ほぼメール専用機となり果てていたが、大正末期に生まれ、齢77歳にしてコンピューターを操る、と書くと事実ながらも急に凄味を増す。

 メールで日取りを決め、お昼ご飯を食べに行くのがいつしかお決まりとなった。祖母にとって私はたったひとりの孫で、この習慣の成り立ちにはたぶん、いや、わりと明確に、ひとり孫としての使命感めいたものもあったと思う。また、「祖母と孫」の時間を過ごせるのが今しかないと直感的にわかっていた、というのもおそらくある。

 私が行く日は、祖母は1駅先の遠いスーパーまで足を運んで私の好物を買い揃えてくれた。卵豆腐と納豆と、ときどきちょっといい牛肉。そして毎回必ずあるのは板に乗ったウニ。自分でスーパーに行くようになった今ならわかるが、東京のスーパーにはウニなんて置いていないことのほうが多い。1軒目のスーパーでウニが見つからなければ、何軒か回って探してきてくれた。

 お茶碗にもられたほかほかのご飯に、まずはウニをひとかけら。一口だけウニご飯を食べて、その後に納豆をかける。私は納豆のタレの味が好きなのに、家で買っていたのはタレがついていない納豆だったので、タレを楽しむ貴重な機会でもあった。納豆ご飯タイムには、ウニは刺身でちびちびといただく。最後にまたウニを乗せて食べる分だけのお米を、お茶碗の中で慎重に残しながら納豆ご飯をたいらげたら、残しておいたウニを乗せてひと思いにかっ込んだ。祖母の家で食べるウニはほとんどがチリ産の茶色いウニで、舌が肥えた今食べたら苦いと思うのだろうけれど、あのときの私は、そのウニが毎回楽しみで仕方なかった。うまいうまいと食べる私を、祖母はテーブルの向かいでニコニコ見ていた。

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