日本が“無謀にも”米軍と開戦した理由に迫る 日本陸軍・謀略機関の「極秘報告書」を発掘
「極秘」扱いの報告書を発見
秋丸機関が作成した報告書は長年見つからなかったので、有沢の証言は事実であるとみなされてきました。そして秋丸機関の研究とその結末は「正確な情報を無視した陸軍の非合理性」を示す例としてこれまでしばしば挙げられてきました。
しかし、近年はオンラインで利用できる公的な歴史資料データベースが飛躍的に充実し、一昔前とは比較にならないほど容易に資料の所在の確認や閲覧が行えるようになりました。インターネットでデータベースにアクセスし、適切なキーワードで検索するだけで、一瞬で資料を見つけることができるようになったのです。
このような環境変化を受けて、私は大学図書館や公共図書館などで数多くの未発見の秋丸機関関係資料を発掘することができました。焼却されたといわれていた陸軍上層部向けの「極秘」扱いの報告書も多くが見つかり、その調査を基に平成30(2018)年に『経済学者たちの日米開戦』(新潮選書)を刊行し、幸いに翌年度の読売・吉野作造賞をいただくことができました。
その後も新資料が相次いで見つかり、今年に入り、陸軍上層部向けの報告書で見つかっていなかったものも、やはりインターネット上での検索の結果、大東文化大学で見つけることができました。
イギリスの弱点
報告書が焼却されたという有沢証言は事実ではなかったわけですが、では見つかった「極秘」の報告書にはどのような情報が書かれていたのでしょうか。焼却とまではいかなくても隠蔽しなければならないような陸軍にとって不都合な事実か、あるいはその逆に対英米戦に大いに役立つ必勝の戦略が書かれていたのでしょうか。
実は結論から言うとどちらでもないのですが、まずは報告書の内容を説明しましょう。
昭和16年7月に作成された秋丸機関の報告書「英米合作経済抗戦力調査」では、次のようなことが書かれています。
「イギリスは主に植民地など本土以外から資源を得ているがそれでも不足する資源が多い。しかしイギリスだけでなく第三国にも多額の支援を行う余裕のあるアメリカを合わせれば巨大な経済国力となりほとんど弱点は無くなる。
ただしアメリカからイギリスへの船舶による軍事物資輸送力に弱点がある。またアメリカの戦争準備には1年から1年半かかるのでその準備の遅れも弱点といえる」
こうした分析を基に、イギリスに資源を供給する植民地を奪ったり、アメリカからイギリスに軍需物資を運ぶ船舶を大量に撃沈したりすることが戦略として提言されています(アメリカに対しては具体的な戦略はほとんど提言されていません)。
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