日活ロマンポルノ50周年 堕ちてこそ神々しい谷ナオミ…今も色褪せない3人の女優たち
3人目はやはり…
もっと挙げたい女優はいるのだが、3人となると最後は芹明香だろう。熱烈なファンがいる女優である。華奢でスレンダーな肉体だが、この人のすごさは圧倒的な存在感だ。演技をしているのかどうかさえわからないのに、すべてを凌駕する存在感は他に例を見ないほどだと思う。
代表作は『(秘)色情めす市場』(1974年・田中登監督)だ。国宝級とまで言われるこのモノクロ作品の中で、芹明香演じるトメは娼婦である。大阪釜ヶ崎のあいりん地区を舞台に、「ひとりで稼ぐわ」と男に管理されることを嫌って生きるトメの姿を描いている。
「うち、なんや逆らいたいんや」
芹明香はそうつぶやく。男に後ろから突かれながらたばこをくわえ、ヤクザに殴られても一歩もひけをとらずに抵抗し続ける。
彼女は、やはり娼婦の母親に路上で産み落とされた。今も男の顔色をうかがい、男にすがる母を嫌い、自分はああはなりたくない、男に引きずられる人生はまっぴらだと思いながら彼女は生きている。彼女には知的障害をもつ弟がいる。弟を見つめる芹明香の目は限りなく優しい。何もかも受け入れ、何もかも与える。聖母である。
やさぐれているように見えて、心の中に純粋で透明な太い軸をもっている女を、芹明香はまるで自分の日常を見せるかのように軽やかに演じている。たくましく生きていく女、逃げない女、自分の足で歩く女を芹明香は見せ続ける。ロマンポルノの他作品にも多く出演しているが、どんな小さな役であっても彼女は常に印象に残るのが不思議だが、だからこその人気なのだろう。
芹明香と聞くと、彼女のファンのみならずロマンポルノファンの目が輝くのは、誰の心の中にも「自分だけの芹明香」がいるからかもしれない。男性だけではなく、その骨太な存在感は女性からの支持も高い。
ロマンポルノ第一作から半世紀。それでも多くの作品が色褪せず、今観ても心からおもしろいと思えるのは、ジャンルが時代劇からコメディまでと幅が広いこと、当時、脂ののったクリエイターたちが心血を注いで、あらゆる工夫を重ねながら愛する映像を作り上げたことなど、さまざまな理由がある。自分にとっての「この1本」が見つかったら、繰り返し観るのも楽しい。年を経るにつれ、見えるものが違ってくるからだ。
今や映画作りの古典として、大学の芸術学部では講義もされているロマンポルノ。映画の大事なものがたくさん詰まった、日本文化のレジェンドであり、レガシーとなっているのではないだろうか。 DVDや動画配信、CS放送などでも観られるので、ご興味があれば、ぜひ。