辛口コラムニストが選ぶ2021年「連ドラ」ベスト3 1、2位は冒険と実験が山盛りの良作
視聴者の変化
林:当たり前の仕事ができない言い訳としてよく聞くのは、ネットとの競合や消費の冷え込みで広告収入が減って制作費が削られるという話で、これは実際そのとおりなんだけれど、これはドラマを作って送り出す側の話で、実はもうひとつ、ドラマを受け止めて見る側の要因もあるかと。YouTubeなりアマプラ(Amazon Primeビデオ)なり ネトフリ(Netflix)なりHuluなり、動画に限ってもこれだけ時間潰しの選択肢が増えてきた今、視聴者は連ドラの駄作には手を出さなくなってます。
アナ:安くてもマズいお店は潰れるようになったという飲食業界の話と似ていますね。
林:そう。一方で安くてウマい店に人気が集中するというのも飲食の世界と同じ。
アナ:なるほど、「ドラゴン桜」と「ハコヅメ」が3位にとどまった理由が見えてきました。どちらもウマいけれど安いということですか?
林:そうそう! ウマいけど安いからというより、ウマいけど普通だからと言ったほうが正確だけれど。「ドラゴン桜」にしても「ハコヅメ」にしても、レストランではなく食堂なのよ。
アナ:そのたとえもよくわかります。
林:注文取りから厨房からお運びまで、誰もが昔からの仕事をしっかりやってて、安心・安定の旨さだよねっていう食堂。肉ならカツとかソテー、魚なら刺身に引くか甘辛く煮るか塩焼きか照焼きか。旨いけれどありふれているし、ありふれているけれど旨い。
食堂かレストランか
アナ:同じ肉や魚でもレストランが仕入れると、調理もサービスも珍しかったり新しかったりする方向になりがちですよね。
林:そして値段は上がって、客の数は減る。
アナ:ベスト第3位の2本も、ドラマとして目新しかったり画期的だったりする新機軸というのは少ないんですよね。「ドラゴン桜」は16年前のドラマ版の続篇ですし、「ハコヅメ」もドラマによくあるバディ(相棒)系の警察モノですし。
林:そうそう。TBS系日曜劇場の名物になっちゃった「半沢直樹」調の演出・展開とか、バディはバディでも交番勤務の女子ふたりとか、一見目新しそうな要素も加わってはいるけれど、それによってこれまでに見たこともないようなドラマになっているわけじゃない。とんかつ屋さんの付け合せのポテサラにカレー粉が入ったとか、定食屋さんのご飯が胚芽米に変わったとか、そういうレベルであって、ウィンナーシュニッツェル(ウィーン風カツレツ)しか出さなくなったとか、鯖サンドイッチの専門店に変わったとかという話ではない。
アナ:なるほど。そう聞いてくると、この後、第2位・第1位に林さんが選ばれたドラマは、慣れ親しんだ料理を出してくれる食堂ではなく、新しい味を体験できるレストランのような作品……ということになりそうですね。
林:おお、言われてみるとそういうことかもしれない。大将の仕事が目の前で見られる創作系の板前割烹とか、エル・ブジ(スペインにあった実験的メニューで知られるレストラン)の後釜を目指すような変態レストランとかね。
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