辛口コラムニストが選ぶ2021年「連ドラ」ワースト3 2位「レンアイ漫画家」、1位は意外な高視聴率作品
何がいけなかったのか
林:まず、コッカをキキから救おうと奔走する若い役人たちという設定だね。「シン・ゴジラ」方面を目指してみたのかもしれないけれど、総理&副総理の下で沈没対策を仕切るのが小栗旬とか松山ケンイチとかの世代だけってのは、ちょっとでも霞が関の現実を知ってる大人の眼にはリアリティ極薄。ホラ吹きのレベルがさらに高い怪獣モノ、それも上映時間2時間弱の映画の速い展開で押し切った「シン・ゴジラ」なら鼻につく暇がなかったけれど……。
アナ:2カ月以上延々つきあう連ドラの長丁場では違和感が強かったですね、確かに。
林:最終回で急にストーリーに“未知の感染症”を盛り込んできて安さが爆発していたけれど、感染症ならまだ初回にブチ込めばよかったんだよ。東大出の40代以上男性だけが死ぬか廃人になるかする生物兵器なんてのでも登場させときゃ、「日没沈本」世界ではどの省庁にも課長も部長も局長も審議官も次官もいないという不自然さに屁理屈は立った。
アナ:政治サイドで仲村トオルさん演じる首相と石橋蓮司さん演じる副総理の2人ばかりが目立って、その他の閣僚の影が薄いことも非現実的でしたね。
林:そうそう。行政だけじゃなく政治の分野でも世代や役職の“中抜き”が激しいし、国会とか地方自治体とかもロクに描かれないから、ニッポン沈没というコッカのキキの打開をリードする人間が東京のごく一部に1ダースくらいしかいない。
アナ:浮世離れという言葉が頭に浮かびました。
林:リアリティを追求するなら、たとえば……大臣やら次官やらのおっさん連が縦割り頭の鳩首協議で役立たず、おかげで四国沈没への対応が間に合わずに膨大な被害者が出て、それで若手官僚の「日本未来推進会議」とやらがやっと実権を握れました……くらいの筋立てはチャチャッと展開できたはずだし、そのナントカ会議にせめて地方自治体の出向者、できればユニコーン企業の創業者でも追加しときゃ、似非「シン・ゴジラ」感も薄められたと思うんだけれどね。
アナ:林さん、代案出しまくりじゃないですか。
林:「シン・日本沈没」のホン(脚本)、庵野秀明のゴーストライターになって書きたいくらいだよ!
脚本にも穴が
アナ:日曜劇場版「日本沈没」、他にはどんな問題がありましたか?
林:やっぱり脚本。橋本裕志が選ばれたのは同じTBS系日曜ドラマの「華麗なる一族」(07年)とか「官僚たちの夏」(09年)とかでの実績を買われてのことじゃないかとは思うんです。「華麗~」も「官僚~」も古くて長い原作をどうイマに活かすかが課題だったし、「官僚~」なんてそれこそ原作は元祖「シン・ゴジラ」かよというくらい役人がクニを動かす話。そして今回の「日没沈本」の脚本では、その2つの点が鍵になっていた。
アナ:なるほどなるほど。
林:ただ、役人が主役のストーリー作りに失敗したことは今、指摘してきたとおりだし、古くて長い原作の処理にも成功したとは言えないなぁ。物語のモダナイズ、現代化を狙ってのことでしょう、それこそ似非コロナ騒ぎとか首相相手のドローンを使った爆弾テロとか、ちょっとイマ風な要素をあれこれ追加しているんだけれど、どのエピソードも発生してはすぐに収束して、ハイまた次のエピソード……という数珠つなぎ。次の展開の伏線になったりするわけじゃなく、メインのプロットに絡んでこない。
アナ:本当にそういう最終回でした。
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