アホの坂田を引き出した「前田五郎さん」 晩年は吉本興業とトラブルで裁判沙汰【2021年墓碑銘】

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偶然のやりとり

 コンビを組んでいた坂田利夫さんを前田五郎さんが、「お前、アホか」となじったことをきっかけに生まれた歌が「アホの坂田」だった。その誕生話、坂田さんとのコンビ仲、晩年のトラブルまでを振り返る。

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 前田五郎さんの名前に心当たりがなくても、「アホの坂田」こと、坂田利夫さんは御存じだろう。ふたりは漫才コンビ「コメディNo.1」を1968年に結成、2009年まで続いた。

 最初は鳴かず飛ばずだった。ある日、舞台で言葉に詰まった坂田さんに、前田さんは思わず「お前、アホか」となじった。怒って反撃するところを「そうや、アホや」と受け止めた坂田さん。偶然のやりとりを観客はネタと思って大爆笑。

 72年、歌唱の部分を前田さんが担当した「アホの坂田」が大ヒット。歌はあまりに反響を呼び、全国の坂田君がアホよばわりされる社会現象にまで発展した。

 放送作家の保志学さんは思い出す。

「坂田さんは本当はアホとは違うんですが、ボケが時々、意味不明で空回りすることがある。前田さんは端正な芸でしゃべりも流暢、声もいい。坂田さんの持ち味を引き出し、うまく整理してリードしていました」

吉本興業はコンビをバラ売り

 42年、大阪生まれ。本名は前田邦弘。吉本新喜劇の端役同士が漫才で開花。横山やすし・西川きよしを追う全国区の人気者になり、出演番組は月に約100本。

 演芸評論家の相羽秋夫さんは振り返る。

「忙しくても几帳面でした。大阪で入手できる新聞の演芸記事を全部切り抜いていました。その作業を10年、20年どころかもっと続けていたはず。残っていれば非常に貴重な資料です」

 凝り性で、写真は玄人はだし。からかわれるとすぐに激昂し、他人の持ち物に「贈 前田五郎」と落書きするなどいたずらが過ぎた。

 コンビの仲は良くなかったらしい。吉本興業はコンビをバラ売りし、坂田さんの単発の仕事が増えていく。

 放送作家の大河内通弘さんは言う。

「俺が引っ張り成功したという自負心が前田さんにありました。でもピンで存在感があるのは坂田さん。ライバル心が伝わってきた」

 アホ芸はすたれなかった。長女の前田真希さん、次女の前田まみさんが、2005年以降相次いで吉本新喜劇に入団。順風満帆だった。

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