妻の不倫を疑い、尾行した夫 トイレで着替え“別人”になった彼女が向かった想定外の場所は
居場所をなくした弘樹さんが向かった先は…
それから弘樹さんは、娘のことを気にしながらも、妻にはなかなか声をかけられずにいた。妻の生活は変わらない。ときには「今日は出張で一泊します」という連絡が当日の昼に入ってくることもあった。出張というのは、つまりはアイドルの追っかけで地方に一泊するという意味だ。わかっているなら早く言えばいいのに、妻には妻の葛藤があるのだろうか、いつも当日に伝えてくる。弘樹さんが仕事でどうしても早く帰れないときは、近所に住む娘の友だちの母親に連絡するしかなかった。
「そんな日々が続いていくうち、僕は何のために生きているんだろうと思うようなっていきました。ちょうど仕事がうまくいかなかったこともあって、なんだか虚しくてたまらない。とうとう、娘のために僕の母親に事情を話して時間がある限り、来てもらうことにしました。娘と母は気が合うようでしたが、妻と母は合わない。それがわかっていたから、母にはとにかく妻には当たり障りなく接してほしいと頼んで……。娘のことだけ考えてもらうようにしました。母は不穏な雰囲気を感じとったのかわかってくれた」
弘樹さんもなるべく早く帰るよう心がけたが、職場にも家庭にも居場所がないとしか思えない。酒が飲めない弘樹さんは、あるときふと吸い寄せられるように風俗店に足を踏み入れた。
「その日、相手をしてくれた女性が優しくて。なんてことのない世間話をしただけなんですが……。心にあった鉛のような重いものが少し軽くなりました」
それから彼はその女性の元へ通うようになった。自分にも少しだけ非日常のホッとできる時間がほしかった。それだけだった。
「ただ、そのことを知った妻が自分の母親に言いつけたんです。僕がうっかり手帳に挟んでおいた割引券を見つけ、探偵事務所に頼んだようです。義母は大騒ぎしました。もともと妻は僕の給料が足りないという理由で、母親から生活費を援助してもらっていた。それが立証されたようなものなので、義母は僕の母親にまでその話をして……。僕は義母に例のアイドルとの写真などを見せましたが、『アイドルにはまるより、風俗にはまるほうがタチが悪い』と言われました。妻は自分の立場をよくするために僕を陥れたんでしょう」
そもそも、夫婦仲はそれほど悪いわけではなかったはずだ。それなのにどうしてそんなことになったのか、弘樹さんにはまったくわからなかった。
「妻は、仕事を辞めたのは僕のせいだと思っていたんです。いつからそんな誤解が生じたのかはわからない。ただ、妻は自分が幹部候補だったことを思い出していたんでしょう。自分が勤めていれば、今の僕より出世していたはず。それなのにどうしてこんな男と結婚したんだろうと後悔していたみたいです。会社を辞めたいと泣いたのはきみだと僕は言ったけど、彼女はそんなことは言ってないと。昔のことを言い合っても埒が明かない」
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