妻の不倫を疑い、尾行した夫 トイレで着替え“別人”になった彼女が向かった想定外の場所は
“家庭の奴隷”
その場でライブハウスの外観を写真に撮り、帰宅した妻にそれを見せた。いいかげん白状しろよと冗談交じりに迫ると、妻は「趣味よ。若い子を応援したいだけ」と淡々と言った。
「その言い方からして、実は単なる趣味ではないとわかりました。妻はあるユニットの誰かひとりを好きになっていたようです。自分の収入の大半をつぎ込んでいたんじゃないでしょうか。怪しいと思ったので、妻がいないときに家計簿みたいなものを探したんですが、どうしても見つからない。代わりに妻名義の銀行の通帳を見つけました。パートの収入が振り込まれると即日全額引き出している。それだけではなくて、ときおり妻の実家から母親名義でお金が振り込まれている。どういうことか悩みました」
地下アイドルのことがどうしても頭から離れず、弘樹さんは「恥を忍んで」探偵事務所に調査を依頼した。本当は自身の妹か女友だちに頼もうと思ったのだが、どうしてもプライドが邪魔してできなかったのだという。
「調査はすぐに上がってきました。妻は週に一度はライブに出かけ、チケットやグッズなどを買っている。しかもプレゼントもしていましたね。1度に5万円程度のものをあげてもいる。後ろからハグされている写真とか、妻がアイドルにすがるように胸に顔を埋めている隠し撮りなどもあり、調査結果を見て、なんともいえない気持ちになりました。これで妻が楽しいと心から思っているなら、僕はそれを辞めさせることはできない。ただ、実家からの振り込みも気になるし、娘に気持ちがいっていないように思えるのも気になる。それに、妻がアイドルにはまった時期と、僕との夜の生活を拒否するようになった時期が重なるんですよ。それも引っかかりました。妻の母親に相談してみようかとも思いましたが、やはりここは本人にぶつかってみるしかないと覚悟して口火を切ったんです」
アイドルにお金を貢いでいるのか、家計はどうなっているのか。怒らないから腹を割って話してほしい。弘樹さんは心を込め、妻を慮って言ったつもりだった。だが妻は心を開こうとはしなかった。
「僕もついイラッとして、よほど後ろめたいことがあるのか。そういえば最近は全然、夜の生活にも応じてくれないよね、他で満たされているということか、という内容のことを言ってしまったんです。妻は『あなたのそういうところが耐えられないの』と泣き出しました。夜遅かったから大丈夫だと思っていたけど、ふと気配を感じて振り返ると、娘がじっと僕たちを見ていた。声をかけようとしたら娘は自分の部屋にさっと入っていって。娘のためにも僕たちは理解しあったほうがいいと思うんだよと妻に言いました」
そこで妻がようやく少しだけ話したのは、パート先の友人に連れられて行って地下アイドルが好きになったのは本当だし、それなりにプレゼントはしているが家計に影響があるほどではない。娘のことは第一に考えているつもりだけど、私は家庭の奴隷にはなりたくない、と。
「家庭の奴隷ってどういう意味なのか、家族はみんな対等だろと言ったけど、妻はそれ以上話そうとはしませんでした。とにかく娘をひとりにする時間はなるべく作りたくないから、遅くなるときは言ってほしい、僕がなんとかするからと言うしかなかった。妻はこくりと頷きましたが、笑顔はありませんでした」
自分が妻に何をしたのか。“奴隷”という強烈な言葉に弘樹さんは打ちひしがれた。
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