「値段は約2200万円」 来年、普通のサラリーマンが宇宙旅行へ 10年以内に費用は数百万円に
墜落については「考えても仕方ない」
墜落事故は副操縦士の操縦ミスが原因とされ、今では改善が認められてアメリカ連邦航空局(FAA)からは、民間人を乗せる宇宙船として初めて認可を受けている。
「ブランソン氏も、同じ機体で宇宙旅行を体験していますから、安全性は確立されたと考えています。旅行保険にも加入する予定ですが、説明会ではF1レーサーやエベレスト登山者よりは安い掛け金になる、と知らされている程度で具体的にはまだ決まっていません。が、どんなに科学技術が進歩しても自動車だって事故のリスクは伴います。宇宙旅行も絶対安全とはいえませんから、これ以上は考えても仕方がない。そう思うことにしています」(同)
驚くことに、稲波氏同様参加者の間で事故を理由にキャンセルした者は一人もいないとか。肝心の宇宙旅行の中身については、先の平松氏が説明してくれた。
「前澤さんのように、大型ロケットに乗って高度350~450キロの地球周回軌道(オービタル)を目指すのではなく、サブオービタルといって高度80~130キロ付近の宇宙空間に数分間とどまり、青い地球を見下ろしながら無重力空間を体験する予定になっています。アメリカのニューメキシコ州にあるスペースポートから離陸して、再び戻ってくるまでに要する時間は3時間ほどだと聞いています」
現在、宇宙旅行は二つのパターンに大別される。ひとつは今回の前澤氏のように、ロシアが誇る大型ロケット「ソユーズ」に搭乗してISSに滞在したり、民間が開発した宇宙船で数日間滞在するタイプ。もうひとつは、稲波氏や平松氏のように短時間のみ無重力状態を味わう弾道宇宙飛行。いわば気軽な日帰り旅行といった格好で、費用も前者と比べれば安く済む。
とはいえ、どちらも格安航空券で海外旅行に出かけるレベルには程遠いのもまた事実である。宇宙への旅が庶民の手軽な選択肢となる日はくるのだろうか。
「10年以内に数百万円」
「誰もが宇宙旅行を楽しめるようになるまでには、少なくともあと半世紀以上の時間を必要とするのではないでしょうか」
とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授の的川泰宣氏だ。
「ソ連が世界初の人工衛星を打ち上げたのが1957年。アメリカがアポロ計画で人類初の有人月周回飛行に成功したのが68年でした。それから半世紀以上経った現在、ロケット技術は格段に進歩して、安全に地球を周回する技術的な問題はクリアされています。おかげでアメリカなどの企業が参入して民間にも門戸が広く開かれるようになりましたが、宇宙に行くためのコスト問題は残されたまま。搭乗費用を劇的に下げるには宇宙船の大量輸送を可能にする必要がありますが、その実現見通しは明確には立っていません」
前出の大貫氏はこう話す。
「まだまだ宇宙旅行は一般庶民には手の届かない夢物語といった趣ですが、大きな流れでみればロケットの再利用や打ち上げ頻度を増やすことでコストは下がってきてはいます。仮に1週間に複数回の打ち上げが可能になれば、弾道宇宙飛行なら10年以内に1回の搭乗費用も数百万円台にまで下がるという試算もあります。実際、スペースX社は地球周回軌道を飛行する100人乗りの宇宙船を開発中ですし、NASAやイーロン・マスク氏は2030年代から有人火星飛行を実現させる計画を発表しています。宇宙関連産業の世界では、40年代に月面に千人居住、さらに1万人が地球との間を行き来する展望もありますが、どちらにしても搭乗する費用が今よりもっと安くなることが前提です」
背伸びした富豪が宇宙に行けるのは当たり前の時代にあって、サラリーマン宇宙飛行士の誕生こそが、我々庶民にとって希望の星となるのではないだろうか。