「値段は約2200万円」 来年、普通のサラリーマンが宇宙旅行へ 10年以内に費用は数百万円に
現金一括払いのみ
初回の募集定員は約100名で日本人の枠はわずか1名。応募多数のため代理店による抽選会が行われたが、稲波さんは落選してしまう。
「ところが当選した方がキャンセルしたそうで、次点の私が繰り上げになった。会社のランチタイムの時間でそばをすすっている時に代理店から電話がありましてね。“おめでとうございます。当選しましたのでお金を振り込んでください”といった趣旨の話だったんですが、聞き取りづらいこともあって何かのイタズラ電話じゃないかと……。宇宙旅行詐欺にあったのかと思いましたよ」(同)
彼が疑心暗鬼になったのも無理はない。その当時、世界初の宇宙旅行を謳ったツアーのお値段は20万ドル(直近の最終募集では45万ドル)。日本円に換算して約2200万円もの大金だったのである。しかも、応募条件として提示されたのは現金一括払いのみ。分割払いなどは一切認められなかったとして、稲波さんはこう振り返る。
「学生時代は寮住まいで、早朝の新聞配達などいくつかのアルバイトを掛け持ちしていました。社会人になってからも稼いだ金は使わずコツコツと貯金して、株などの資産運用もやっていたので多少の余裕はありましたので、なんとか現金をかき集めて支払うことができました。とはいえ、参加者の方々の大半は、私と異なり短期間で20万ドルを用意できるという人たちばかりだったようです」
当選者はカリブ海のイギリス領ヴァージン諸島に浮かぶネッカーアイランドに招待された。ツアーを主催するヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏が保養地として所有するプライベートの島を舞台に、参加者一同が集まっての懇親会が開かれたそうだ。
「私は日本からエコノミークラスの飛行機を乗り継ぎ、24時間かけてヘトヘトになって駆け付けたんですがね。他の参加者は優雅にもプライベートジェットで来ていて、自分のライフスタイルとはまったく異なる人々がいることを痛感しました。集まった方々の国籍は、多い順にアメリカ、イギリス、オーストラリアで、男女比率は男性が7割で会社経営などに携わっている方が多いイメージ。女性の多くは富豪の未亡人などでしたが、総じて高齢者が多くて私は最年少でした」
追加募集が何度か行われ、現在は世界中で600名ほどがツアーの予約をしているというが、稲波氏をはじめ日本人はわずか20名程度しかいないという。
「親には大反対されて…」
その中の一人で、ホリエモン逮捕後にライブドア社長を務めるなど企業の再生請負人としても名高く、現在は団塊世代向けSNSサービスを運営する小僧Com株式会社会長の平松庚三(こうぞう)氏(75)が言う。
「これまで20回以上、ニューヨークやボルチモアなど場所を変えながら世界のさまざまな所で、予約した参加者たちとの交流の場が設けられてきました。私にすれば、それだけでも大金を払った価値がある体験でした。超がつくほどの大金持ちなんていなくて、むしろ変わり者の集まり。強烈なまでに知的好奇心が旺盛な仲間ばかりだから、会って話すだけで楽しい。応募してから16年も待たされるとは思いませんでしたが、年に1、2回くらい皆で集まる機会が設けられるので、それが楽しくてちっとも苦ではありませんでした」
本来、稲波氏や平松氏は前澤氏より遥か前の08年に宇宙旅行へ出かけられる筈だった。しかし、使用するロケットの開発が遅れた挙句、試験飛行中に墜落。副操縦士1名が死亡する事故が起きて予定延期となってしまったのだ。参加を取り止めることは考えなかったのだろうか。
再び稲波氏に尋ねると、
「親には大反対されて、わざわざ大金を使って危険な宇宙旅行をすることに何のメリットがあるのかと言われました。03年に起きたスペースシャトルのコロンビア号空中分解事故の記憶も生々しく、私自身も不安を募らせ相当悩んだのは事実で、心の葛藤はありました」
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