コロナ禍で減収減益でも運賃無料化 「岳南電車」に常識を覆す戦略について聞いた

国内 社会

  • ブックマーク

担当者は「こじつけです」と笑うが…

 同企画は2021年12月25日(土)を皮切りに、2022年1月1日と2日を除いて2月13日までの土日祝日を全線運賃無料にするキャンペーン。その財源には観光庁の既存観光拠点再生・高付加価値化推進事業交通連携型による補助金が活用される。

 岳南電車は7000形の運行開始から25周年を記念し、16日間にわたって全線無料DAYを開催すると告知。担当者は「25周年という決してキリのいい数字ではないことからもわかると思いますが、無料DAYを実施するためのこじつけです」と笑った。

 こじつけという自虐を含んでいるものの、コロナによる減収でも必死に生き残りを模索していることは伝わってくる。

 岳南電車は同補助金を活用するべく、これまでにも企画を考えて応募している。残念ながら企画は採用されなかったが、今回の全線無料DAYは念願が叶って初採用されることになった。

「この企画は、他社が打ち出した一乗車50円を意識しています。あちらが50円なら、こちらは無料ということです」(同)

 担当者が口にした他社の一乗車50円というのは、小田急が「2022年春からIC乗車券での利用に限り、小人運賃を一乗車50円にする」と発表したことを指している。

 小田急の一乗車50円という施策は期間限定ではない。一方、岳南電車は期間限定で、そこに大きな違いはあるが、岳南電車は大人の運賃も無料にする。そのインパクトは大きい。

 沿線に目玉がなくても、無料なら近隣を観光した後に立ち寄るハードルは低くなる。それが、新たな魅力を発見してもらうことにもつながり、リピーターになるかもしれない。

 また、これまでマイカーで出かけていた沿線住民が利用することにより、今後は岳南電車で出かけようという機運が生じる可能性もある。

運賃無料のトレンド

 運賃無料というトレンドは岳南電車だけではなく、ここ数年で鉄道業界に広まりつつある。例えば、東急電鉄は開通90周年のイベントとして2017年に池上線フリー乗車デーを開催。各駅で「東急池上線1日フリー乗車券」を配布し、1日限定で池上線の運賃を無料にした。池上線フリー乗車デーは好評を博し、翌年には第二弾となる池上線全線祭りも実施された。

 もっと昔から運賃の無料化に取り組んでいるのが、北海道函館市を走る函館市電だ。函館市電は2007年から毎年12月31日の終電後から1月1日の始発前まで、初詣客に利便を図る目的で無料電車を運行してきた。

「新型コロナウイルスの影響から2020年~2021年、2021年~2022年の初詣無料電車は中止です」(函館市企業局交通部事業課担当者)

 函館市電の初詣無料電車は運行費用を賄うためにスポンサーを集め、それで運賃の無料化を実現したという経緯がある。初詣という混雑する日なので密の状態をつくらないために無料電車は中止になっているが、コロナが収束すれば初詣無料電車は復活するだろう。

 また、函館市電は沿線の商店街がスポンサーになって無料の買い物電車を運行した過去もある。

 各社の運賃無料化の取り組みが、沿線外からの需要を掘り起こしたことは言うまでもない。鉄道が開業して以来、鉄道は運賃を払って利用するというのが当たり前だった。その当たり前が、覆されようとしている。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。