町工場で実践した「意識改革」と「生産性向上」――諏訪貴子(ダイヤ精機代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

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町工場の生産性を上げる

諏訪 基礎ができたら、次の1年はチャレンジです。世の中でいいと言われているものはみんなトライしてみた。新しい機械を入れ、生産管理システムも全面変更しました。

佐藤 それにはずいぶんお金がかかったのではないですか。

諏訪 社長になって2カ月くらいで黒字転換したので、借金せずに投資できましたね。

佐藤 でも中小企業にとって、こうした投資は賭けでもあります。

諏訪 私は会社の強みを「技術力」だと思っていたんです。経営戦略を立てるにあたり、自分でSWOT分析(強み=Strengths、弱み=Weaknesses、機会=Opportunities、脅威=Threatsの4項目で整理分析)した。でもそれを元に資料を作って見てもらったら、「これは、あなたの目線でしょ」と突き返されてしまったんですね。つまりお客さんの視点が入っていないということです。そこでお客さんに尋ねてみたら「対応力だよね」って言われたんですよ。

佐藤 そこが買われていた。

諏訪 高い技術や適正な価格は当たり前のことで、特急対応してくれるとか、電話ですぐ来てくれることが評価されていたんです。それならここを強化しなくては、と生産システムを変更することにした。

佐藤 効率化を図ったわけですね。でも中小の工場で大きく変わるものですか。

諏訪 変わります。ウチの工場では、複数の機械を使い、複数の工程を経て作り上げる製品が多いんです。製品によって、形も生産工程も違う。1カ月に扱う製品数は、当時、図面だけで7千点、出荷製品数は1万点に達していました。

佐藤 多品種少量生産ですね。

諏訪 ええ。だから対応力を高めるには、生産工程を徹底管理することが重要で、製品ごとの材料取り、形状加工、穴あけなどの工程が、未着手、着手、中断、完了のどの段階か、すぐ把握できるようにしました。つまり、いつ、どの製品のどの作業に取り掛かるべきかが一目でわかるようになった。

佐藤 これが経済産業省の「IT経営実践企業」に選定されたことにつながるわけですね。

諏訪 そうです。15年も経ったので今年また全面改訂しましたが、このシステムは他社にも広がりました。生産管理をすることで、中小企業でも生産性は上がるんです。

佐藤 それがはっきりしたのは大きい。

諏訪 そして最後の1年は、それまでやってきたことを振り返り、維持・継続・発展できるような仕組みを作りました。つまり標準化です。それで3年が完結です。

佐藤 3年という区切りがいい。キリスト教神学でも基本になるのは3です。父、子、聖霊の三位一体が3です。

諏訪 3は人の印象に残りやすいそうです。だいたい問題解決や業務遂行には、4段階の法則が多い。PDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクルがそうですし、起承転結もそうです。でも4という数は間延びしてしまう。一方、3は安定感もあるしスピード感もあります。危機的状況の中で、生まれ変わるという意識を持つためには、スピード感が必要でした。

佐藤 西洋史の澤田昭夫氏に『論文の書き方』という指南本があります。その本で彼は、起承転結はダメだと言うんです。論文に「転」は要らない。そこで話が飛んでしまって、意味不明になるからです。

諏訪 そう、起承結でいいですよ。

佐藤 武道や茶道などの修業は、3段階で「守破離」です。まず「守」で自分の流派の教えや型、技を習得し、それから「破」で他流を知り、いいところは取り入れる。そして「離」は流派から離れて独自の道を確立させる。まさにダイヤ精機の歩みはそれと同じですね。

諏訪 それなら、私、すごくないですか(笑)。

佐藤 3年の改革を計画しても、その通りにはいかない可能性もあったわけですよね。

諏訪 そこはもうぶつかり合いながら必死にやりました。「なんでこんな教育、受けなきゃいけねえんだよ」と、すごい抵抗がありましたけど、3年の改革が終わる頃には「オレたち、新生ダイヤだからよ」と言い始めた。これを聞くためにやってきたんだな、と思いましたね。

佐藤 ドラマチックですね。諏訪さんがモデルのNHKドラマ「マチ工場のオンナ」が作られたのもよくわかります。ただ、経営はそこで終わるわけではない。

諏訪 次は若手人材の確保です。当時、平均年齢が53歳でしたから、新入社員を入れて技術を継承してもらえるようにしないといけなかった。

佐藤 標準化できていると、それに従って教育できますね。

諏訪 その通りで、ちょうどリーマンショックが起きた時期でした。こういう時は、大企業が採用を控えますから、私たちには好機でした。それでもなかなか人が集まらなかったのですが。

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