【対談】川村元気×岩井俊二 映画と小説の作り方はどう違う? 二人が語る“小説沼”とは

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自分たちのアドバンテージ

川村 恐ろしいほど共感します。そういえば岩井さんも、“映画と小説両方やって大変じゃないですか”とよく聞かれませんか。僕の場合、むしろ映画をやってないと書けないなと思うんです。小説って、どう書くかはもちろん重要ですが、それ以上に、「何に気づいているか」が大事だなと思っていて。つまり、時代や世界の気分を書き手がどう感じとっているか。僕らの場合、映画の現場で多くの表現者に出会うし、彼らがすごく尖った受信センサーを持っていたりしますよね。そこで得たものを持ち帰って書けるのが、アドバンテージだなと。

岩井 映像や音楽が近くにあると、文章を書くときにも意外と役立ちますよね。いろんな引き出しもできるし、ガイドラインになってくれたりもする。

川村 俳優や、音楽や漫画の世界の受信感度が高い人たちとつばぜり合いをすると、持ち帰るものがとても多い。

岩井 逆に自分もゼロから作っていないと、彼らと同じ地点で話ができないよね。僕も昔、漫画を出版社に持ち込んだりしていたことがあるので、毎週すごいクオリティーの作品を描いている漫画家の苦労はいかばかりかと思います。

川村 そうですね。自分で物語を書くことで、すごい才能がどんどん現れても、かろうじて会話が成立する。原作ものの映画化においても、受け取るだけの姿勢になっちゃったら、つまらないものしかできないのかなと。

岩井 自分で小説書いたりシナリオ書いたりするプロセスが一番大変で、これがなければだいぶ楽だぞって思うんだけど、それをやめると物語をつくる筋力が落ちる。その恐怖が大きくて、やめられないでいます。

川村 わかります。家で一人作業、つらいです……。

岩井 もつれた糸を巻き直すような作業を延々とやっている感じだからね。

川村 苦行ですよね。でも、自分の中でこんがらがったリールはやっぱり巻き直して解決したいし、やっていると「うわ、こんなアイデア、大勢で打ち合わせしていても出なかっただろうな」という展開やセリフを思いついたりもして。

岩井 まあ、文章を作り上げていく楽しさはもちろんあるよね。それでこんなふうに一冊の本にできたら最高に楽しい。映画とはまた別種の喜びとして、小説沼はありますよ。

川村 確かに、沼かもしれない(笑)。一人で世界を作る楽しさを覚えちゃうとやめられない。実は次の「もつれた糸」も見つけてしまったので、また苦行が始まりそうです。

岩井俊二(いわいしゅんじ)
1963年仙台市生まれ。95年、「Love Letter」で長編映画監督デビュー。映画、小説、音楽など活動は多彩。代表作に映画「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」、小説『リップヴァンウィンクルの花嫁』『ラストレター』等。

川村元気(かわむらげんき)
1979年横浜市生まれ。「告白」「悪人」「君の名は。」などの映画を製作。2012年、初小説『世界から猫が消えたなら』を発表、累計200万部を超えるベストセラーに。ほかの著書に『億男』『四月になれば彼女は』『百花』、対話集『仕事。』等。

週刊新潮 2021年12月23日号掲載

「『神曲』刊行記念対談 『川村元気』×『映画監督 岩井俊二』描きたかったのは『神の正体』」より

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