【対談】川村元気×岩井俊二 映画と小説の作り方はどう違う? 二人が語る“小説沼”とは

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神の正体をどうすれば物語にできるか

岩井 いずれまた変わるかもしれませんが、今はそういうやり方が調子がいいかな。川村さんはどんな作り方ですか。

川村 僕は毎回、自分の知りたいことや不安なことが出発点になります。

岩井 自分の不安解消のためなんだ。

川村 まさに。『神曲』だと、神様が怖い、みたいなことです。僕自身は宗教を持たないけれど、親族が熱心なクリスチャンだったので、聖書を読んで育ちました。大人になってそこからは離れたと思っていたんですが、でもやっぱり、自分の根っこに深く刺さっていると感じることが度々あって、これは一度きちんと対峙しなければと。それで、神の正体をどうやったら物語にできるか考えるところから始めました。そのうえで、毎回モチーフを探します。岩井さんの『零の晩夏』は美術の話でしたが、『神曲』の場合は音楽。クラシックももとをたどれば宗教音楽ですし、岩井さんの「リリイ・シュシュのすべて」を観ても、音楽って極めて宗教的なものだと思うんです。そういう複数のモチーフが合流してから、ようやく物語の形が見えてきます。

宗教の信者、元信者100人以上に取材

岩井 ちょっと意外でした。登場人物がすごく写実的だから、そのあたりがスタート地点なのかなと。

川村 人物を作るための取材はものすごくします。岩井さん、前に“一番強いのはドキュメンタリーだ”と言っていたじゃないですか。僕らは劇映画を作ってるのに。

岩井 うん。

川村 それが強く印象に残っていて。僕も大量の取材をして、生の言葉をベースにキャラクターを作っていくんです。今回はさまざまな宗教の信者や元信者など100人以上に取材しました。それをもとに、神を信じていない父、信じきっている母、その間で揺れる娘という3人の視点から描いたんです。

岩井 娘の花音(かのん)は、偶然にも僕の小説の主人公と同じ名前だったよね。

川村 不思議なシンクロですよね。その花音に「好きっていう気持ちは、信じることに近いから怖い」というセリフがあるんですが、それも、ある新興宗教を脱会した方が言っていた“自分は信じたものを一度失っているから、好きになる力が弱い”という話からきています。すごい言葉だなと思って。

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