作家「高橋三千綱さん」の楽天と快楽 俳優に刺されても情状酌量を求めた過去【2021年墓碑銘】
「爽快で、けれんみのない人」
映画評論家の垣井道弘さんは振り返る。
「映画が公開された時期にインタビューしたことを憶えています。名前だけの監督ではなく、完全に自主制作していました。下駄履きで現れて驚いたものです。気負ったところなどなく、作品、主人公への思いがあふれている様子が早口から伝わってきました」
映画はヒットに至らず借金を背負ってしまうが、めげるどころか、ジャンルを広げ猛烈に作品を書き、十数年かけて完済した。
高橋さんをじっくり取材した作家の増田晶文さんは当時を思い出す。
「実に爽快で、けれんみのない人でした。ためらったり口ごもることがなかった。自慢をせず、失敗の方を詳しく正直に語って下さった。いつもフリーでいたい、と話されていたことが印象的でした。何かに属さない軽やかさ、しなやかさがある一方で、ものを創り出すことに妥協しなかった」
日本酒を毎日6合は軽く飲んでいたという。62歳で肝硬変で余命4カ月と告げられ、禁酒で一時は乗り越えたが、食道がん、胃がんが相次いで見つかった。出くわした問題から逃げないのが高橋さんだ。自分が納得できる治療法を求め続けた。
生きているうちにどれだけ幸せになれるかを大切にしていた。闘病経験をつづった作品も実に楽天的だ。
今年に入っても小説を発表、取材にも応じていた。
8月17日、肝硬変と食道がんのため、73歳で逝去。
人生は短い。しかし、ひとりで生きるには永すぎる、と晩年よく語った。家族や仲間への感謝が常にあった。
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