私大ガバナンス改革はなぜ必要なのか 「仕掛け人」が語る“日大事件”と多すぎる“問題点”
文科省は「“ほぼ”同等」と主張
――井ノ口容疑者が逮捕された7月に、文科省に「学校法人ガバナンス改革会議」が設置されました。「仕掛け人」は塩崎さんだと言われています。
塩崎 自民党の行政改革本部長だった2019年から、大学のガバナンス改革が必要だと訴えてきました。学校法人は公益法人のひとつとして広大なキャンパスへの固定資産税など税制上の圧倒的な恩恵を受けています。これは、国民の税金を使っていることに等しく、財政学では、“tax expenditure(隠れた補助金)”と呼ばれています。
加えて、大半の大学は国民の税金から多額の助成金を受けています。日大の場合、年間約94億円です。そんな大学が、他の公益法人、例えば公益財団法人や社会福祉法人では当たり前に導入されているガバナンス制度となっていないのです。そこで自民党行革本部からの働き掛けで、政府は「骨太の方針2019」では、他の公益法人と「同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正」を行うこととし、閣議決定されています。ここは、当初、文科省事務方が「“ほぼ”同等」と主張しましたが、当時の柴山昌彦・文科大臣の英断で、「同等」とすることとし、この時点で、大きな方向性は既に決まっていたのです。
2019年の閣議決定を受け、文科省内での検討は本年3月に一旦はまとめられたものの、法改正に繋がるものとなっていなかったため、今年6月の「骨太の方針2021」では、「手厚い税制優遇を受ける公益法人としての学校法人に相応ふさわしいガバナンスの抜本改革につき、年内に結論を得、法制化を行う」と明記され、閣議決定されています。それに基づいて萩生田光一・前文科大臣が、大臣直属の組織として改革会議を立ち上げ、法改正に向けた制度改正案作りを委嘱したのです。
――12月3日には報告書がまとまり、13日に大臣に手交されました。理事の選解任などの権限を評議員会に持たせ、予算決算や重要な資産売却などに評議員会の議決を必要とすべきだとされています。しかし、大学の理事長等が反対しているそうです。
塩崎 閣議決定された(他の公益法人と)「同等のガバナンス機能を発揮できる制度改正」と言える改革案だと思います。5000ある財団法人や2万以上ある社会福祉法人など他の公益法人ではどこでもやっている仕組みです。大学は特殊だ、だから他と異なっていて良いのだ、という反対意見も聞きますが、公益法人として免税措置をする一方、理事長のやりたい放題を許す特別扱いを認めることは、理解されないでしょう。
明らかな利益相反が起こり得る仕組み
――評議員が学外者だけで構成され、「最高監督・議決機関」にするのは問題だと言っている私学経営者もいます。
塩崎 ガバナンス構造において、最高、といった概念は存在しません。一つの組織の中で、ガバナンスの各役割を担う部署それぞれが、お互いその役割を果たすことによって、組織全体として究極の目的の実現を、説明責任を果たしながら、公平・公正かつ効率的に図ることを実現させるのです。
他の公益法人の評議員も、理事等の任免権を持つとともに、理事会が執行することの承認など監督機能を担いますが、現行の学校法人におけるガバナンス法制下では、評議員が監督される側の理事を兼務できてしまったり、理事長に採用されている職員が就任したりする、という、明らかな利益相反が起こり得る仕組みとなっています。また、そもそも、現行の評議員は理事長によって実質的に選任されていますから、理事長の意に反する形で問題点を指摘するようなことはなかなかできません。従って、現状では、執行部である理事会へのチェック機能は誰も担っていないということになります。だから、理事長の暴走を許してしまったわけです。
監事の権限強化を日本私立大学連盟(私大連)は唱えておられますが、その監事も今は理事長任命ですから、理事長へのチェック機能は十分果たせない、と考えるのが自然です。となると、理事長、理事会をチェックする機能は、現行学校法人のガバナンス構造では、どこにもないという事になります。納税者の税金を使うのに等しい、多額の免税措置を受けながら、公益法人としての最低限のガバナンス機能を持たないままで行けば、「骨太の方針2019」の閣議決定違反となる事は明らかです。
末松信介文科大臣、文科省事務方におかれては、少なくとも閣議決定に反することなく、他の公益法人と同等のガバナンス機能を発揮する制度改正を断行してもらいたいと思います。
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