「アバランチ」は令和のドラマ史に残る快作 最終回から読み解く藤井監督のメッセージ

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綾野は「勝敗を表現したい作品ではない」

 エピローグは羽生たちが格好良かった一方で、大山の転落劇は皮肉が効いていた。

 山守は大山から内閣情報調査室(内調)への復帰を勧められる。アバランチの活動は不問に付すという。

 山守はそれに応じるかのような態度を見せ、メンバーたちには自首を促した。だが、もちろんメンバーは自首などしない。山守の大山への服従も見せかけだった。

 その後、羽生は郷原栄作総理(利重剛、59)のところへ向かう。総理に大山の悪事を証明する映像の存在をアピールするためだった。無論、暗殺など企てていない。

 突拍子もない行動ではなかった。羽生と郷原は面識があった。第7話で羽生は郷原を誘拐したからだ。大山が郷原を射殺し、アバランチを犯人に仕立て上げようとしたので、それを阻止するためだった。大山は郷原を舐めきっていた。

 羽生は屋外の衆人環視の中、両手を挙げて郷原に近づいた。細かい話になるが、リアルな設定だった。羽生は指名手配されていたものの、人前で両手を挙げている人間を射殺するわけにはいかない。せいぜい狙撃どまり。

 無抵抗を表明している人間を射殺したら、狙撃手らはほぼ間違いなく殺人罪で告発される。おかげで羽生は「知人」である郷原に接近し、「何かある」と思わせることに成功した。

 一方、やはりアバランチである西城英輔(福士蒼汰、28)は、大山の手下の1人で神奈川県警刑事部長の父親・西城尚也(飯田基祐、55)に対し、極東リサーチへの武器横流しの事実を突き付けた。

 すると尚也は意を決し、不正の公表に踏み切る。息子の前で恥ずかしい行為は出来ないと考えたのだろう。これが契機となり、前述した遠山記者の記事が世に出た。雪崩が起きた。

 最終的に大山を更迭したのは舐められていた男・郷原である。その際、大山にこう言い放った。

「国民は彼ら(アバランチ)を信じようとしている。そして私も同じ気持ち」(郷原)

 世論操作のプロが、世論の変化を敏感に察知した郷原に切り捨てられたのだから、皮肉だった。

 綾野は放送前、こうコメントした。

「このドラマは勝敗を表現したい作品ではありません。すべての人たちにとって当たり前の希望や、生きることへの誇りや尊厳を、少しでも感じ取っていただけたらと」(綾野)

 劇中の山守、リナの言葉と重なり合う。自分たちの望む社会は自分たちで掴み取るもの。そう言いたいのではないだろうか。

 この作品は恵まれない一面もあった。序盤は1話完結色を強め、観る側を楽しませながら登場人物を紹介する形を採ったところ、一部視聴者の理解を得られなかった。

 人気が高まったのは、時計の針が3年前に戻され、アバランチ設立の経緯や羽生の心象風景が描かれた第5話以降だろう。ファンの間で第5話は「エピソード0」と呼ばれている。凝った構成だった。

 個性豊かな作品だったのは間違いない。現在、民放のプライム帯(午後7時~同11時)の連ドラ枠は計13本もあるが、いろいろな作品があったほうが視聴者は楽しめる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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