「アバランチ」は令和のドラマ史に残る快作 最終回から読み解く藤井監督のメッセージ
見応えのあるアクションは、令和初!
いずれにせよエッジが効いた作品だった。「新聞記者」で権力の暗部をリアルに描いた藤井監督が、この作品でもギリギリのところまで攻めた。
公安畑の大山は3年前、自作自演のテロを起こし、社会不安を煽り、それを利用して権力を掴んだ。世論を手玉に取った。
最終回の残り約20分の段階までの大山はやはり世論は操れるものだと高を括っていた。
「(アバランチが)爆破テロに加えて、総理暗殺まで企ててくれるとはねぇ。今や世論はアバランチへの恐怖と敵意一色だ。お陰で対テロ法案の成立もスムースにいきそうだよ」(大山)
もちろん大ウソだ。爆破テロは大山の犯行、総理暗殺は大山のデッチ上げである。山守は羽生らに対し、当初から「殺すな」と厳命していたのだから。
その大山の野望は思わぬ形でついえる。遠山記者が「アバランチの真実」を報じたのが発端だった。他社も追従した。すると、世論が動き、やがて雪崩(アバランチ)となった。大山は埋もれてゆく。
藤井監督からしてみれば、マスメディアの情報を鵜呑みにするのは危険だという思いも込めていたのではないか。劇中のテレビニュースも遠山記者の記事が出るまで羽生を重罪人扱いしていた。
ちなみに、この作品はメディアリテラシー(メディアからの情報を主体的・批判的に読み解く能力)担当の監修者を置いていた。そんな連ドラは聞いた試しがない。
一方で目が覚めるようなアクションやクスリと笑えるギャグもきっちり盛り込まれていた。バランスが絶妙だった。令和ドラマ史に残る快作になったと言っていいのではないか。
特に、ここまで見応えのあるアクションが登場した連ドラは令和に入ってから初めてに違いない。最終回、羽生は大山配下の秘密犯罪組織・極東リサーチのボス格である貝原隆史(木幡竜、45)と自分たちのアジト内で戦った。貝原は羽生が第6話などで倒せなかった強敵だ。
アジト内には羽生らによって爆弾とつながったレーザーポインターが張りめぐらされており、その光に触れたら爆発、光に囲まれている範囲から外れても爆発という仕掛けになっていた。おまけにタイマーも付けられており、爆発まで残り約3分しかなかった。
「さぁ、始めようぜ」(羽生)
羽生の貝原への挑発で始まった戦いは迫力満点。映画「亜人」(2017年)などで綾野のアクション能力は折り紙付きだが、パンチもキックもまるでプロの格闘家だった。一方、木幡は元プロボクサーで本物だから、こちらの動きも切れ味が良かった。
約2分間の壮絶バトルの末、最後は羽生が右ハイキックと右フックの連続攻撃で決めた。羽生はダウンした貝原に「はーい、お疲れさん」と声を掛けた。とぼけた一面もある羽生らしかった。
この作品はやはり激しいアクションをこなしたリナ役の高橋も含め、吹き替えなし。すべて自分たちで演じた。アクション監修はウルトラマンメビウスのスーツアクターなどを務めた和田三四郎(43)らがチームで担当した。道理で生々しかった。
一方、羽生らが仕掛けたレーザーポインターとつながった爆弾はフェイクだった。ハッタリだ。貝原以外の極東リサーチ工作員の動きを封じるためのものだった。羽生は本物の爆弾と信じ込んでいた残りの工作員を瞬く間に叩きのめし、「極東、意外とピュアだな」と、お茶目につぶやいた。
ここでも羽生がとぼけた味わいを発揮し、クスリと笑わせてくれた。この作品に限らず、1つの作品でシリアスとコミカルを自在に使い分けられるのは綾野の才能だ。
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