元公安警察官は見た 公安のライバル「内閣情報調査室職員」を篭絡したロシアスパイの手口
会食をすっぽかす
2001年、先のリモノフが駐日ロシア大使館に参事官として再び赴任すると、また職員も会うようになった。当時彼は、内閣衛星情報センターに異動になっていた。
以前の会食はリーズナブルな店が多かったが、今度は高級レストランが使われるようになった。そして謝礼の現金も10万円にはね上がったという。
「内閣衛星情報センターは、人工衛星で各国の軍事基地などを偵察する機関です。まさに機密部署なので、ロシアのスパイも本気で情報を入手しようと思ったのでしょう。日本の衛星がどの国を撮影しているか、衛星のカメラはどのくらいの解析度があるか、いずれも重要性の高い機密情報となります」
リモノフは職員に、日本の衛星がどの国の軍事基地を撮影しているのか尋ねた。それに対し、職員は衛星情報センターに送られてくる海外メディアの翻訳記事に解説を加え、レポートの形式にしてリモノフに渡したという。
その後、リモノフの後任としてドゥボビ二等書記官、そしてベラノフ二等書記官が紹介された。いずれも会食のたびに10万円が手渡されたという。
「公安部の外事1課が内調職員の動きに気づいたのは、2006年でした。外事1課で尾行や摘発を専門とする4係の中で『ウラ』と呼ばれる精鋭部隊が、内調職員がロシアのスパイと会食しているという情報をキャッチしたのです」
ベラノフは1度、職員との会食をすっぽかしたことがあった。
「ベラノフが日本の公安に尾行されていないか、大使館にいるロシアの安全確保要員が常に監視しています。彼らが公安の存在に気づいたのでしょう。それでベラノフにドタキャンさせたのでしょう」
職員がベラノフと会食する時は、店の中や外に「ウラ」の捜査員が10人ほどで監視していたという。
「カップルやサラリーマン、店員などに変装しています。隠しカメラで現金を手渡しているところを撮影し、高性能集音マイクで会話を録音したそうです」
職員が摘発されたのは、2007年12月9日。その日は神奈川県川崎市のレストランでベラノフと会食する予定だった。職員が店に入ると、外事1課の捜査員に取り押さえられたという。もっとも、すでにベラノフは公安の動きを察知して、3日前にロシアに帰国していた。
ロシアのスパイから受け取った現金は計400万円にも及んだ。職員は贈収賄と国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検され、2008年1月17日付で内調は懲戒免職となった。同年3月25日、東京地検は漏洩した機密の重要性が低かったと判断、起訴猶予処分となった。
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