平均年収1700万円となった後発不動産会社の戦略――西浦三郎(ヒューリック代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】
少数精鋭の経営術
佐藤 ヒューリックは、社員の年収の高さでも知られています。
西浦 いま平均給与は1700万円くらいですね。上場企業では、2~3番目に入っていると思います。またフリンジ・ベネフィット(福利厚生)も、日本で一番充実しているんじゃないでしょうか。会社に来れば、朝食、昼食は無料ですし、日中の飲み物もタダです。また人間ドック並みの健康診断も、本社に設置した保育所や独身寮も無料で利用できます。
佐藤 このビルに入る時、子供たちが保母さんに引率されて散歩に行くのを見ました。
西浦 保育所はこの5階にあります。社員はいつでも利用できますし、空いていれば、地元の方もご利用いただけます。
佐藤 出産一時金も充実しているそうですね。
西浦 1人目が10万円、2人目が20万円、3人目が100万円です。私は3人目を200万円にしようとしたら、人事部長がいつの間にか100万円にしていた(笑)。
佐藤 いや、100万円でもすごいことですよ。富士銀行も福利厚生が充実していました。そのDNAが引き継がれている。
西浦 弊社はいまも社員が200人いません。少数精鋭のプロ集団でやっていこうと考えたんですね。不動産管理会社でしたから、こちらに来た時には建築の専門家が全くいませんでした。だからそういう人を他社から引っ張ってくるところから始めたのですが、人数を絞ったのは、これから労働人口が減ってくるので、なるべく人を使わないですむ事業を中心にやっていこうと考えたこともあります。だから事業はBtoB(法人向け)がほとんどで、BtoC(一般消費者向け)はホテルと旅館くらいです。
佐藤 ちょうど内閣情報調査室が200人くらいの精鋭集団です。インテリジェンス機関も数じゃないんです。選び抜かれた人が情報を集めて分析する。
西浦 ただ、弊社は最初、人が集まらなかったんですね。12~13年前に新入社員募集をしたら、全然来ないんですよ。ヒューリックなんて名前も知らない。だからまず早稲田大学とか慶應大学の最寄駅のホームに広告を出すところから始めましたね。
佐藤 いまからは考えられないですね。
西浦 みんながどんな職場に興味があるかといえば、やっぱりペイがよく、フリンジ・ベネフィットが充実していて、働きやすいオフィスがある会社でしょう。そしてそれらとともに、やりがいのある仕事、新しいことにチャレンジできる仕事が必要だと思うんです。私は16年間、そういう職場を作ろうとやってきました。
佐藤 少数精鋭にすると、その人材によって会社の業績は大きく左右されることになります。
西浦 弊社では30歳までに二つの資格を取ることを推奨しています。不動産ディベロッパーですから、宅地建物取引士はほぼ全員持っていますし、合格率が1割ほどの1級建築士もかなりいます。今年は6人受けて、5人が受かりました。
佐藤 そうした成績を取ってきてくれると伸ばし甲斐がありますね。
西浦 1級建築士などは予備校に行かないと受からないので、資格取得の補助金を出しています。みんな、その道のプロになろうとしていますし、自分だけチャレンジしないとドロップアウトしてしまうという気持ちもあるようですね。
佐藤 社員がお互い刺激し合って向上していくのに、資格取得はいいですね。営業成績の数字だけでは叩き合いになってしまいますから。
西浦 そうですね。よく「2・6・2の法則」と言うじゃないですか。どんな組織でも2割はすごく優秀で、6割が普通よりはいい仕事をし、残る2割はいまひとつだと。その下位をどうするかが問題です。
佐藤 優れた2割がいるとなった時、残りの8割を腐らせないようにするのはとても大切です。
西浦 弊社の社員はみな地頭はいい。中間の6割もそれなりにやる気がありますから、やはり問題は下位の2割なんですね。新しいことにチャレンジさせたり、資格を取らせるなどしてプロになってもらうよう引っ張っていますが、なかなか難しいですね。
佐藤 外務省での経験から言うと、その2割は最初の3年で決まってしまいますね。語学です。語学ができないと外交官は務まりませんから。ただ、できない人も領事部などの落ち着き先はあります。
西浦 私どもは10年先を見ていかなければいけない仕事ですから、先を見て自分で考えていくことがすごく大事なんですね。単純に言われたことをやるだけだったら、パートにしたりアウトソーシングした方がいい。考える力をどうつけさすか、なんです。
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