北京五輪 米大統領の「外交ボイコット」発言は正論か 傾聴に値するマクロン大統領の主張

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日本政府のスポーツに関する意識の甘さと傲慢さ

 中国外務省は12月9日の会見で、「日中両国には、オリンピックの開催を互いに支持し合うという重要な共通認識がある」としたうえで、「中国が東京オリンピックを全力で支持したのだから、今度は日本が信義を示す番だ」と主張した。(テレビ朝日ニュース)

 今夏の東京五輪の開会式に中国から出席したのは、国家体育総局の苟仲文局長だ。習近平主席ではない。これに関連して、国内では次の報道があった。

〈来年2月からの北京冬季五輪・パラリンピックをめぐり、政府は開会式などに合わせた閣僚の派遣を見送る方針を固めた。日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長を送る方向で調整しており、スポーツ庁の室伏広治長官らの派遣の可否も検討している。政府関係者が明らかにした〉(12月11日、時事通信)

 国家体育総局の局長に対応した人物となれば、室伏スポーツ庁長官でよさそうだが、苟仲文氏は中国オリンピック委員会の主席も兼務する閣僚級の人物だという。日本のスポーツ庁長官は閣僚ではないから、橋本聖子元オリンピック担当大臣(現東京2020組織委員会会長)なら礼儀を失しない、との判断も成り立つのではないだろうか。

 細かい点だが、ひとつ指摘を加えたい。上記報道で、「日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長を送る方向で調整しており」とあるが、これは重大な勘違いだ。政府や政治家たちの思い上がりを示している。JOCは政府から独立した組織で、山下会長が政府から派遣されるのはおかしい。IOCの構成団体であるJOCの会長がオリンピックに参加するのは当然だ。ここに日本政府のスポーツに関する意識の甘さと傲慢さが透けて見える。だから、せっかく正論を口にしても説得力を持たないのかもしれない。

「オリンピックという主体を政治化してはならない」

 フランスのマクロン大統領の主張は明快だ。9日午後(現地時間)の記者会見で、米国主導の外交ボイコットに「同調しない」とし、次のように述べた。

「オリンピックという主体を政治化してはならない。我々はIOCに協力して、選手たちを保護するオリンピック憲章を守っていく」

 この会見に先立って、ブランケール教育相がテレビで「北京五輪には教育省の体育担当長官が出席する予定だ」と公言している。教育相は、「中国で発生している人権侵害は、糾弾を受けるに値する。けれどスポーツはそれ自体に意味がある世界だから、政治的干渉から保護されなければならない」とも述べている。

 3年後のパリ五輪の開催国フランスが、IOCとの協調路線を取るのは当然としても、外交ボイコットとは言わず、中国の姿勢には明確に抗議する。そしてオリンピック・ムーブメントは支持する、力強いリーダーシップではないだろうか。

 日本の報道やネット世論を見ると、アメリカ主導の外交ボイコットこそが世界の主流であるように感じられるが、2026年冬季五輪開催国のイタリアにしても、フランスと同様の姿勢を取っている。

 コロナ禍の影響もあってか、日本の世論がひとつの方向に固執していく風潮を強く感じる。東京五輪開催に反対する世論もそうだった。

 この問題でも、「外交ボイコットをしなければ日本は国際社会で立場を失う」という一方的な考え方に影響されすぎることなく、冷静かつ柔軟に外交、スポーツ、そしてオリンピックの本質をそれぞれ見極めて最善の方向を選択してほしい。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄永遠伝説』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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