国の面子にこだわるせいで…オミクロンで中国の「ゼロ・コロナ」政策が窮地に立たされる
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は12月14日「新型コロナの変異型(オミクロン型)が他の変異型に見られなかった速さで広がっている」との見解を示した。「重症度は低い」との見方があるが、「入院患者が急増すれば医療機関が対応できなくなる恐れがある」として世界の医療関係者は警戒を強めている。
中でも来年2月に北京の冬季五輪開催を控える中国政府は、オミクロン型の感染拡大を是が非でもくい止めたいところだろう。
中国政府は新型コロナのパンデミック発生以来、徹底した検査や隔離などを組み合わせた「ゼロ・コロナ」対策で感染拡大を強引に抑え込んできた。長引くゼロ・コロナ政策のせいで経済が深刻なダメージを受けており、11月の小売り売上高は新型コロナの影響で前年比3.9%増と市場予想中央値(4.7%増)に届かなかった。雇用にも悪影響が及び、11月の都市部の新規雇用数は前年比18%減となり3カ月連続のマイナスとなった。
だが中国政府はゼロ・コロナ政策に固執している。専門家は11月下旬「ゼロ・コロナ政策を解除すれば1日当たり63万人以上の感染者が発生し、重症患者も2万人以上になる」との見解を示すなど先進国に比べ医療体制が脆弱な中国の泣き所が見て取れる。
中国政府は12月に入ると「ゼロ・コロナ政策は世界の模範」との主張も展開し始めている。2003年にSARSが大流行した際に対応に当たり、中国の新型コロナ対策の権威とされる鐘南山氏は12月11日「オミクロン型は新たな問題を引き起こした。多くの国家が厳格な措置を講じている。これは『過去2年の中国のやり方が正しかった』と世界が理解し始めたことの証左だ」との見解を示した。
中国でも13日に天津市で、14日に広州市でオミクロン型の感染例が報告されている。広州市では既に市中感染も確認されており、さすがの中国政府も手を焼いている。
香港大学の研究チームは15日「オミクロン型の感染の速度は従来のものに比べて格段に速い」との実験結果を公表した。同大学の研究チームは、人から採取した組織を使い、感染から24時間後にオミクロン型、デルタ型と変異前ウイルスの複製速度を比べたところ、気管支ではオミクロン型がデルタ型や変異前ウイルスの70倍以上の速度で増加した。一方、肺でのオミクロン型の複製速度がデルタ型の10分の1だったことから、「感染しても引き起こされる病状は軽いのではないか」と推測している。
この実験結果からわかることは、感染力が非常に強いオミクロン型の感染拡大を人為的に抑え込むことは不可能になったということだ。にもかかわらず、中国政府がゼロ・コロナ政策を維持すれば、これまでとは比べようがないほどの犠牲が出るだろう。
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