放映権料136億円を捨てても中国での開催を中止 「女子テニス協会」に学ぶ中国との付き合い方
中国に牛耳られたIOC
今回の一連の騒動はもちろん彼の地で一切報じられていない。かくも抑圧甚だしき中国に対し、全く物を言えずじまいだったのが、あの“ぼったくり男爵”、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長だった。
彭帥選手の告発後、収拾を図ろうとする中国政府と歩調を合わせるように、バッハ会長は彼女とテレビ電話で話し、無事を確認したことを明かした。まるで「明らかに外交問題ではない」と主張している中国政府の代弁者である。
スポーツ評論家の玉木正之氏はバッハ会長と中国の蜜月関係を指摘する。
「まず13年、バッハが会長に就任すると真っ先に訪中し、翌年、中国人がIOC副会長に就いています。さらに、17年にはマクドナルドがTOP(The Olympic Partner)と呼ばれるIOCの最高位スポンサーから撤退すると、同年、中国の『アリババ』が、19年には乳製品国有企業の『蒙牛乳業』が参入することになりました」
かように中国との関係が緊密化するIOC。年明けには“大切な”北京冬季五輪も控える。
「IOCという組織を端的に言うならば、五輪を開くことだけを目的とした組織です。五輪を開くのに必要なのは金です。金よりも大事なものを守ったWTAとは対照的に、IOCは五輪を開催できない損失を恐れて、中国に強硬なスタンスをとれない情けない組織に成り下がっているのです。現在のIOCは中国に牛耳られていると言っていいでしょう」(同)
ウイグル自治区の綿の使用をアパレルメーカーが次々と中止
しかし、IOCが評価を下げたことは決して対岸の火事ではない。中国に進出する企業も同じリスクを背負っているのだ。
例えば、最近になり、新疆ウイグル自治区の綿(新疆綿)の使用をアパレルメーカーが次々と中止している。中国の綿花生産量は世界2位を誇り、その約9割が新疆綿だが、中国政府に弾圧され強制労働で作られた綿ではないかという疑惑が取りざたされているからだ。
「中国の官製メディアは繰り返し新疆ウイグル自治区における“強制労働の事実はない”と報じています。ならば、なぜ海外のジャーナリストに自由に取材をさせないのでしょうか」
と、再び阿古氏が言う。
「報道の自由が許されていないのに、中国政府の主張をそのまま認めることはできません。現在、日本を含めた多くの企業が中国と取引をしていますが、新疆ウイグル自治区を含めた人権問題については透明性が欠如しています。企業はそうした国とビジネスをするリスクをきちんと考えるべきでしょう。消費者と投資家の眼は年々厳しくなっている。人権侵害や強制労働の事実を確認しないままビジネスを進めれば、企業のブランド価値を落とすことにもなりかねません。それは企業のみならず、中国と外交関係を持つ国であっても、同じことが言えるのです」
札束で頬を叩く国といかに対峙すべきか、今般のWTAの決断から政府も企業も学ぶべき点が多い筈だ。
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