放映権料136億円を捨てても中国での開催を中止 「女子テニス協会」に学ぶ中国との付き合い方

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 自滅する覚悟で事実を明かす――。テニス選手が中国共産党元幹部に性的関係を強要されたという告発が世界に衝撃を与えた。女子テニス協会が大会開催中止を表明すれば、五輪の外交ボイコットを叫ぶ国も……。覇権を広げる国への所作。そのヒントが示された。

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「あなたは私を自分の部屋に引き入れ、十数年前と同様、私と性的関係を結んだ」

 かの国を動揺させた、たった一つのSNSへの投稿。中国女子テニスの彭帥(ほうすい)選手(35)が、中国最高指導部のひとりだった張高麗前副首相(75)に性的関係を強要された、と告発したのは11月2日のこと。投稿はすぐに削除されるも、あっという間に拡散し、中国は事態収拾に追われる。蟻の一穴とはまさにこのことである。

 さらに投稿後、彭帥選手の行方が分からなくなると、大坂なおみ選手は「ショックを受けている」とツイッターに書き込んだ。彼女の消息は確認されたというものの、女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモンCEOが今月1日、「(彭帥選手が)脅迫を受けていないか、重大な疑念を抱いている」として、中国での全ての大会を中止すると発表したのだ。

 2019年にはWTAツアー59大会のうち9大会が中国で開催され、深セン市で開かれるWTAファイナルは賞金総額が約35億円にもなる。さらに15年、中国企業との間で10年で約136億円のデジタル放映権契約まで結んでいる。WTAにとってビジネス面では多額な損失になるにもかかわらず、躊躇なく中国を“切った”のである。

チャイナマネーより選手の命が大切と示した

「WTAにとって巨額のチャイナマネーは魅力的です。しかし、それよりも選手の命が大切だということを示してくれた。大英断です」

 とは彭帥選手と対戦経験がある元プロテニス選手の杉山愛氏である。

 WTAは1973年に9人の女子選手によって設立されている。そのうちの一人が現役時代、「キング夫人」とも呼ばれたビリー・ジーン・キング氏。賞金など女子選手の地位向上を唱え、当初から「男女同権」の意識が強い団体だった。

「設立後、全米など四大大会の賞金は男女同額になり、WTA主催のファイナルでは女子の方が男子よりも賞金が多い年もあります。他のメジャースポーツではありえないほど、女子テニスの賞金額は優遇されている。今回の対応はそうしたWTAの理念に基づく判断だったと思います」(同)

 なぜ彭帥選手の声はかき消されたのか。中国の実状を東京大学の阿古智子教授が解説する。

「中国でも#Me Too運動は18年頃から盛り上がりを見せています。しかし、権力者や体制側を告発した被害者は、途端にSNSで発信できないよう投稿が制限され、検閲されてしまいます。さらに、その告発が裁判になったとしても中国は法の支配が不十分で、権力者が自分たちに都合の悪い裁判を握りつぶしてしまうケースがあります。裁判が途中で打ち切られる、真相が明るみにならないまま結審する、そもそも裁判官が権力者に買収されていることもあります」

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