元公安警察官は見た タレコミは9割以上ガセ、それでもバカにできないマジネタの具体的事例
日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、公安警察に寄せられるタレコミ(情報提供)について聞いた。
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タレコミと聞くと、刑事警察ではよくありそうなことだが、公安でも決して珍しくないという。
「警視庁の代表番号に電話をかければ、受付の人が各部署に電話をまわしてくれます。中には公安部の組織を熟知していて、受付に『公安部外事1課(ロシア担当)をお願いします』と言う情報提供者もいます」
と語るのは、勝丸氏。
「もっとも、タレコミの9割以上ガセ情報です。しかし、ごくたまに『マジネタ』もありますので馬鹿にできません」
日本企業の情報を外交官に
ある時、男性から「大事な話があります」と電話があったという。
「詳しく話を聞くうちに、彼は東アジアの外国人だということがわかりました。ガセ情報ではないと確信が持てたので、警察署に来てもらって話を聞くことにしました。勤務する日本企業の情報を母国の駐日大使館にいる外交官に謝礼と引き換えに渡していたそうです」
最初は、企業紹介のパンフレットといった特に問題のなさそうなものを提供していたという。
「企業のホームページにあるような公の情報でも、謝礼として3000円相当の図書券や商品券をもらっていたそうです。当初彼は、こんな情報でも謝礼が貰えると喜び、しばらく、そういうやり取りが続いたといいます」
ところが、月日が経つにつれ、徐々に謝礼の額が上がっていったという。
「高級レストランに招待され、現金を渡されるようになった。代わりに要求もエスカレートし、企業が独自に開発した技術や機密事項に関する情報が求められた。それを拒否すると、『ここまでやってきて、逃げられると思うか』と脅されたそうです」
怖くなった男性は、公安に連絡してきたのだった。
「男性は外交官と10年近く接触していたそうです。私は当時、公館連絡担当班だったので事情を聞きましたが、この案件は東アジアを担当する外事2課に引き継ぎました」
結局、情報漏洩は機密性の高いものではなかったので、事件化することはなかった。
「公安が捜査を行ったということで、その後外交官が男性を脅迫するような動きもなかったといいます。ただ、男性は会社に居づらくなり、一身上の都合で退職しました。実を言うと、このような外交官や大使館の職員が関係する犯罪行為のタレコミは、枚挙にいとまがありません」
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