急激な「脱炭素」が招く原油価格高騰の危機 大産油国「サウジアラビア」からの警告

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「脱炭素」の逆風

 世界の石油産業が投資不足に陥ったきっかけは米国のシェール革命だった。シェール革命が引き起こした2014年以降の原油価格急落で石油開発分野での投資が減小になってしまったからだ。これに新型コロナのパンデミックが加わり、2014年に約8000億ドルだった投資額が今年は約3400億ドルにまで下落する見込みだ。

 専門家は「供給不足を解消するためには年間の投資規模を5000億ドル以上にする必要がある」と指摘しているが、「脱炭素」の逆風が強まる中で投資額を再び増額させるのは極めて困難だと言わざるを得ない。

 世界の原油市場の健全な発展のために設立された国際エネルギー機関(IEA)は2019年まで「世界の原油開発の分野で投資不足が深刻になっており、近い将来、深刻な供給不足に陥る」と警告を発していたが、2021年10月のCOP26では「原油に関する新規投資を今年中に停止すべきだ」と「手のひら返し」とも受け取れる主張を行った。その一方でIEAは投資不足の事情を知りながら、OPECなどに対しては米国の意向を忖度して増産要求を行っている。

 投資不足に起因する供給不足の兆しが出始めている。ナイジェリア(日量約170万バレル)などOPECの一部の産油国は2021年10月から投資不足などの影響で生産能力が低下し、小幅増産のペースにも追いつけなくなっている。

 世界第1位の原油生産国になった米国でも脱炭素を掲げるバイデン政権と石油業界の間の溝が深まっており、シェール企業の財務状況が劇的に改善したのに増産に向けた動きが芳しくない。「潤沢なシェールオイルが原油市場の供給不安を和らげてくれる時代は終わってしまった」との声が聞こえてくる。

 生産能力が頭打ちの状態で生産量を増やしていけば、足りなくなるのは余剰生産能力(30日以内に生産が開始でき、180日以上維持できる生産能力)だ。余剰生産能力は世界の原油市場にとって重要なバッファーの役割を果たしており、減少すると原油価格の高騰を招きかねない。だが余剰生産能力を維持するためには相応の努力が必要だ。

 前述のアブドルアジズ氏も余剰生産能力が消失することに強い危機感を抱いていたが、市場関係者もこの点に注目し始めている。「OPECの来年の余剰生産能力が25年ぶりの低水準に落ち込む」ことを理由に「2022年の原油価格は1バレル=125ドルに達する」との予測が出ている。

 原油の埋蔵量は豊富であり、少なくとも50年以上は枯渇する心配はない。だが原油を採取するためには莫大な投資が必要であり、開発から生産までの期間は5年以上にわたることがしばしばだ。原油需要は引き続き堅調であるため、「供給が縮小するペースの方が早い」との見方が強まっている。

 新たな石油危機を回避するには、世界全体の脱炭素の動きと原油の安定確保のバランスを図ることが肝心だ。IEAがその役割を放棄してしまった今、原油を輸入に依存している日本は世界を主導する形で建設的な議論を進めていくべきではないだろうか。

デイリー新潮編集部

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