脱税の「鬼滅の刃」制作会社社長が本人尋問で“驚きの発言” アニメ業界の構造的問題が明らかに

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作品を制作するたびに赤字に

 それにしても近藤被告はなぜ、それほどまでに手元資金の確保にこだわるのか。そこには「発注元から支払われる制作費があまりに安い」という、アニメ業界の構造問題があるようだ。

「アニメ業界ではヒットする作品は10本に1本と言われ、今はそれより少なくなっているかもしれません。ヒットしないとグッズも売れないし、カフェにも客が来てくれないから、必死になって作ると赤字になってしまう。アニメ制作に求められるクオリティはどんどん高くなっていて、私もスタッフもそれに応えようと懸命に取り組んでいますが、クライアントから提示される制作費が安価なため、毎回、作品を作ると必ず赤字になる。弊社はたまたまヒット作が出たからいいけど、そうでないと倒産します。何で毎回、赤字の作品を引き受けて仕事しているんだろうと思いながら、ずっとやってきました。苦しかったです」(同)

 この近藤被告の発言を裏打ちする、アニメ制作者の厳しい生活実態を示す統計が存在する。業界団体「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」が2019年11月に公開した「アニメーション制作者 実態調査報告書2019」によると、回答者382人の2017年の1カ月の平均作業時間は約230時間(有効回答312人)。これに対して平均年収は約440万円(同360人)で、約4割は年収300万円以下だった。

 好況と言われるアニメ業界だが、シナリオ、絵コンテ、監督、演出、原画、動画、編集、プロデューサー、制作進行など、調査に回答した制作現場の関係者からは「食費すら厳しい」「心も体も金も余裕ない」「だんだん良くなったが、一般社会とはまだ差が大きい」「若者を使い捨てないで」など生々しい声が寄せられている。

 東京地裁の田中昭行裁判官から「業界のベースを変えることは難しいのか」と尋ねられた近藤被告は、こう答えた。

「分からないです。少なくともお金が入ってきた時には、フリーの方に個人参加の形で支払うというのが、この業界では普通でした。でも、あれほど大変な作業をしてもらって、これっぽっちしか払えないのでは拙いということで、途中から月給払いの形に少しずつ変えていき、今回の事件もあって、希望するスタッフ全員を正社員にしました。スタッフにはこれまでの2倍程度のボーナスも支給しました。制作費のベースは少しずつ上がってはいますが、だからと言ってクライアント側が変わったわけではなく、スタッフ全員を正社員にすると経営的に厳しいのは分かっています。それでも僕は良いアニメ作品を作りたいからこの仕事をやってきたし、うちのスタッフは良いアニメでなければ喜んでくれないので、そこは変えたくない。それをどうやって進めていくか、ずっと考えています」

 近藤被告によると、ユーフォー社は現在200人の正社員を抱え、社会保険労務士を顧問にして働き方改革への対応を進めている。経理面では顧問に就任した国税局OBの税理士に帳簿の記載から確定申告まですべてを依頼し、被告と妻は経理に一切関与していない。また、カフェやダイニングの現金売上も各店長が直接口座に入金するやり方に変更したという。

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