文政権下の不況に勝てず ソウル駅内の名物レストランが96年の歴史に幕
韓国で一番古い洋食レストラン
2021年11月30日。韓国・ソウル駅構内にあるレストラン「グリル」が96年の歴史に幕をおろした。この日本統治下で誕生したレストランはGHQにも排除されず、朝鮮戦争にも耐え、IMF危機も乗り越えてきたが、創業100年を目前に新型コロナウイルスと文在寅(ムン・ジェイン)政権がもたらした不況によって廃業を余儀なくされた。現地在住・羽田真代氏のレポート。
「グリル」は、1925年9月に竣工されたソウル駅(当時は京城駅)の2階に、高級喫茶店「ティールーム」と共に入店したレストランで、当時の東京駅の構造などを再現したものであった。
日本でもよく知られている通り、ソウル駅は日韓併合時に日本が巨額の財を投じて建設した駅舎だ。「グリル」では本格的な洋食を味わえるだけでなく、内装や食器も高価なものが使用された。当時、庶民には手が届かない高嶺の花レベルのレストランだった。
筆者は昔、韓国人に「韓国で一番古い洋食レストランがあるから行こう」と言われてこの「グリル」を訪れたことがある。ステーキ価格は4万7000ウォンから5万5000ウォン、「グリル」で人気のトンカツは1万6000ウォンだった(1ウォン=0.096円)。高嶺の花とまでは言わないが、日頃食べる韓国料理と比較すれば値が張る印象で、庶民がそう頻繁に通える店ではない。
韓国一のカツレツ
「グリル」で提供されるトンカツは日本でいうと、洋食屋で提供されるカツレツに近い(実際に「グリル」のメニューにも英語ではポークカツレツと表記されている)。豚肉とソースに味の深みが感じられ、韓国内でこのレベルのカツレツを提供する店は恐らく「グリル」しかなかっただろう。強いて不満点を挙げるとすれば、洋食に不釣り合いなカクトゥギという大根キムチが提供されたことくらいだろうか。
韓国ではうどんと同様にトンカツも国民食となっており、日本語がそのまま使用されている。と言っても、韓国人は“ツ”が発音できないから韓国式に発音すれば“トンカス”となる。
韓国の若者の中にはトンカツが韓国食だと誤認している者も少なくない。韓国・ソウル版のガイドブックを購入すれば“南山(ナムサン)トンカス”が紹介されているから、韓国人のトンカツ好きをご存じの日本人も多いだろう。これを国民食に押し上げたのは「グリル」の功績だと言っても過言ではない。
とはいえ、11月末で店を畳んだ「グリル」が、この96年のあいだ順風満帆だったわけではない。
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