鹿島建設と鹿島家の「婿取り作戦」 70歳の「新社長」誕生で、女系家族による世襲経営に幕

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骨を拾わない創業家

 1993年、宮城県知事の本間俊太郎や茨城県知事の竹内藤男ら自治体の首長や、ゼネコンの業務担当役員が逮捕された事件で、植良と、植良の後を継いだ鹿島副社長の清山信二が逮捕されている。

 ゼネコンの経営は、表と裏の両輪で回ってきた。ゼネコンの業界では談合などの脱法行為が“必要悪”として続けられてきた。談合は会社のためにやり続けたわけで、体制を維持するには、万一の時に擁護してくる権力者が絶対に必要だ。「骨を拾ってくれる」人、それが創業家の重要な役割だった。

 今日、「談合禁止令」で、創業家は動けなくなった。創業家が「骨を拾う」ことを止めたことが、スーパーゼネコンでも不祥事が続発する根底にある。

 鹿島で押味時代に不祥事が多発したのは、一族経営の重石が薄れた影響があるかもしれない。「骨を拾ってくれる」人の存在が見えなくなったことから、腕に覚えのある営業マンたちは、自分でリスクを取って危ない橋を渡り、塀の内側に落ちてしまい、ギルティ(有罪)の宣告を受けることに相成った。

鹿島の「3人娘」

 リニア中央新幹線では大林組と清水建設は、それに関わった幹部社員だけでなく社としても談合を認めた。一方の鹿島と大成建設は談合を認めず、社員も会社も起訴された。

「鹿島は創業家が『(社員の)骨を拾う』ことを止めたから、こうなった」(建設業界の談合の歴史に詳しい談合の元仕切り役)といった、幕内からの陰の声が響き渡る。

 鹿島の経営には創業家が大きな力をもってきた。「中興の祖」と言われた鹿島守之助(第4代社長)の息子・昭一(第8代社長、2020年11月死去)は、直近まで事実上のオーナーだった。

 経営陣には「3人娘」と言われる守之助の娘(昭一の姉)たちの息子である副社長の渥美直紀(71)と石川洋(62)、取締役の平泉信之(63)が名を連ねていた。

 異例ともいうべき高齢の天野が社長に就任した人事を読み解くカギは、3月9日の社長交代会見での押味の発言にある。

5代続けて非同族社長

 東洋経済オンライン(21年3月17日付)は、こう報じた。

《「昭一氏が亡くなる前に、後継についての相談をしなかったのか」。記者から問われた押味氏は次のように答えた》

《「(昭一氏とは生前に)年に2回、じっくりとお話しする機会を設けてもらっていた。『中核である建設業をしっかりとやらなければいけない』という話をずっと受けていた。後継者についても、お願いを申し上げたこともあった。ただ、その面は譲らなかった。強い意志を示された」》

《この言葉の意味を、鹿島の経営体制に詳しい業界関係者はこう読み解く》

《「押味氏は創業家への『大政奉還』を描いていた。現在の経営陣のうち、平泉氏は2012年に取締役就任と遅かったこともあり、今回の社長候補ではなかったかもしれない。渥美氏は(71歳と)高齢で2021年6月の取締役退任が決まっており、本命は石川氏だったのではないか」》

 だが、「昭一の同意を得られなかった、ということではないのか?」と筆者は考えている。

 創業家への“大政奉還”を断念した押味は、若手社員の時から二人三脚で歩んできた天野を社長に起用した。5代続けて非同族社長が生まれたことになる。

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