【袴田事件と世界一の姉】会見に突如現れた巖さん 弁護団が打った「必勝の王手」とは

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背広姿で会見に登場

 ひで子さんは「昨日の夕方、巖に『明日、東京に行くから、7時半に出るから。あんた寝てるから黙って出ていくよ』と言ったんです。ところが今朝5時に起きたら巖が一緒に起きてきて『東京に行く』って言うんですよ。着替えさせて黒いネクタイさせたら『黒(濃紺のスーツ)に黒じゃよくない』って言うから赤いのにして。『新幹線には乗らない、車じゃなきゃ行かない』と言うから、『じゃあ、後で車でおいで』って言ったんですよ」と話した。それで猪野さんが巖さんを車に乗せて静岡県庁まで連れてきてくれた次第だった。

 久しぶりに背広をシャキッと着込んだ巖さん。トレードマークの帽子もよく似合う。ひで子さんと小川弁護士に挟まれる形で、巖さんは記者室の椅子に座った。3人は取材陣にピースサインならぬ「勝利のVサイン」をして笑顔を見せた。

「嘘の捜査」、「善で生きていく」

 まだ拘禁反応の影響は大きいが、会見での巖さんの言葉を紹介する。

「これで袴田巖は無罪なんだよ。事件がないんだから。事件で血が付いてたって、嘘だ、そんなもん。殺された人なんていないんだ」

「警察、検察、裁判所の嘘の捜査があるんだね。そういうことがあるんだね。血が付いてない。嘘なんだ。殺されてない。善だけで生きていくという時代だからね。悪じゃない。悪は死ぬ。善だけで生きる。そういうことで国会を開いてるんだね」

 記者に体調を聞かれると「元気ですよ。私は浜松で元気ですよ。世界を集めてやってるんですから。善だけでやっていく道を開いてるんだね」と答えた。

 小川弁護士が「腰が痛かったんじゃないの?」と向けると、「痛かあなくなっちゃった」、「3日の勝負があったんだね。杖なんか突きやしない。治っちゃったんだ」と嬉しそうに笑った。普段は腰痛のために杖を使っていたが、この日は杖も使わずスタコラと歩いていた。

「最近、楽しみにしているのは何ですか?」との質問には、「世界の問題だねえ。世界は善で動いてる。事件は起こさん。事件はない。世界の人間は。悪は起こさんということだねえ」、「俺が勝ってる」、「俺が勝ってる」と話した。

「最近、食べたおいしいものは?」と聞かれると、帽子をかぶり直して「生きてるんだからね。うな丼でも食べるんだろうね」。浜松在住らしい言葉にひで子さんも苦笑。巖さんは「女の時代だからね。女の代表者集めて、うな丼でも食わそうっていうんだ。一日に10万円、給料があるんだから」と笑わせた。ここでは紹介できない発言もあったが、概ねこのような感じである。

 ひで子さんは笑いながら、弟に好きなように話をさせていた。脈絡がなくとも「嘘の捜査」、「善で生きていく」などの巖さんの言葉に、何かを訴えたい心情が汲み取れる。自らの過酷な体験からも社会正義を希求しているのだろう。「女の時代」という言葉が出てくるところからは、拘置所生活ではあまりわからなかっただろうが、逮捕された1960年代に比べて日本の女性の社会進出が目覚ましいことも出所後に肌で感じている様子がわかる。この日は、釈放後の巖さんがよく使っていた「バイキン」や「儀式」という言葉はなかった。

 静岡県庁詰めの記者たちは「どうせ弁護団とひで子さんが同じ内容の会見を先に東京の司法記者会でやってるし」といった様子でのんびり構えていたが、突然、巖さん本人が登場したものだからびっくり。記者もカメラマンを呼び、テレビ局のカメラクルーも慌てて三脚を立てテレビカメラを据えていた。

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