「経済安全保障」の時代にいかに対応するか――北村 滋(北村エコノミックセキュリティ代表)【佐藤優の頂上対決】

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 これまで安全保障といえば軍事の話だったが、近年は経済や技術の領域にまで拡大して考えるようになった。民間技術が軍事転用され、資源やテクノロジーも戦略的に扱われるようになったからだ。これに日本はどう対処すべきか。岸田政権の経済安全保障政策に道筋をつけた前国家安全保障局長が語る。

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佐藤 北村さんは元警察官僚で、内閣情報調査室(内調)のトップである内閣情報官を7年8カ月にわたって務められ、国家安全保障局(NSS)の2代目局長にも就任されました。

北村 今年の7月7日をもって、その41年にわたる公務員人生にピリオドを打ちました。最後の9年半は総理官邸で過ごしたことになります。

佐藤 体調が理由でしたが、もうよくなられたのですか。

北村 今年に入って右変形性股関節症が悪化し、鎮痛剤が手放せないほどでした。退任後の7月に手術をして、いまはすっかり回復しました。

佐藤 官邸時代は安倍総理の懐刀ともいわれました。数多くのお仕事を手掛けられましたが、その後半は「経済安全保障」という新しい視点で、さまざまな取り組みをされましたね。

北村 世界はいま、経済安全保障の時代が到来しています。安全保障といえば軍事を思い浮かべる人が多いと思いますが、近年、それは経済や技術の分野に拡大してきています。

佐藤 かつては軍事技術が民間に転用され、さまざまな形で利用されました。でもいまは逆に民間の技術が軍事転用される時代になった。

北村 その通りで、インターネットはもともと軍事由来の技術が民間に転用されたものでした。しかし、いまはAI(人工知能)やドローンといった、民間で生まれた技術が軍事転用されている。産業構造の地殻変動が起きているのです。

佐藤 それに対処するため、NSSの中に「経済班」を設置されたのですね。

北村 それまでNSSは、地域別の政策3班に、戦略企画班、情報班、総括・調整班の計6班で構成されていました。そこへ2020年4月、新たに経済班を発足させました。以後、ここが「経済分野における安全保障」の司令塔となり、政策の企画立案、総合調整を行っています。

佐藤 どこから人を集めたのですか。

北村 NSSの主力だった外務省、防衛省はもちろんのこと、経済産業省、財務省、総務省、警察庁などからも来てもらい、総勢約20名の体制にしました。現在のトップは、財務省出身の高村泰夫内閣審議官が務めています。

佐藤 役所の中で新しい組織を一つ作るのは大変なことです。どのような流れの中で誕生したのですか。

北村 経済安全保障の問題自体は、以前からあったもので、霞が関の中では経産省の貿易管理部や警察庁の外事課が担当していたんですね。ただいってみれば日陰の花で、マイノリティでした。でもそれでは現下の国際情勢についていけないという現実があり、自民党の中からもそうした声が強くなってきたのです。

佐藤 アメリカの影響もありますよね。

北村 20年にトランプ政権が対中政策の転換を行う前のことですが、アメリカでは経済安全保障関係の法制度改正が行われました。例えば外国企業による米国企業買収を審査し、差し止めることもできるCFIUS(対米外国投資委員会)の権限を強化しています。こうした動きに触発されて、当時、甘利明議員が中心となり、「ルール形成戦略議員連盟」や「知的財産戦略調査会」などでの議論、そして提言があり、それらが「経済班」の設置につながっていきました。その後、自民党の政調会長だった岸田文雄総理が党の「新国際秩序創造戦略本部」を立ち上げ、経済安全保障に向けた動きを本格化させたのです。

佐藤 核となる部分は、岸田総理、甘利議員で推進してきたわけですね。

北村 もともと安倍晋三元総理の強いご意向もありました。経済班が設置された時には、私に遅すぎたくらいだとおっしゃられていた。

佐藤 こうした流れを見ると、岸田政権で経済安全保障が重要政策になっているのは当然ですね。

北村 もちろん菅義偉政権も取り組んではいましたが、岸田総理は所信表明演説で改めてこの問題について述べていますし、経済安全保障担当の閣僚を設置されたり、法制についても言及されています。ですから経済安全保障関係の政策は従前以上に進んでいくと思います。

佐藤 経済安全保障担当大臣に就任したのは、小林鷹之議員です。

北村 甘利座長のもとで「新国際秩序創造戦略会議」の事務局長を務めていました。内閣府の特命担当大臣として、科学技術と宇宙も担当されていますから、経済安全保障を進めるのに非常に重要な立場です。

佐藤 事務方から働きかけたのではなく、まさに政治主導で進んでいる。

北村 そうです。いまは「経済安全保障一括法」(仮称)のための特別チームもできたようです。早ければ次期通常国会での成立を目指しているのだと思います。

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