米中の板挟みは勘弁… 急浮上した難題「経済安全保障」は経済界にとって諸刃の剣

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TSMCの成功例

「日本が大切にすべきなのは、技術の『戦略的不可欠性』だ」

 このように主張するのは村山裕三・同志社大学教授だ。経済安全保障の問題に長年取り組んできた村山氏の念頭にあるのは台湾の半導体産業。台湾積体電路製造(TSMC)があるから米国は台湾を手放せなくなっていると言っても過言ではない。「言うは易し」かもしれないが、日本企業も「中国に移ったら経済安全保障上大変なことになる」と米国に思わせるような技術を増やしていけば、その先に「日本経済の復活」という明るい未来が待っているのではないだろうか。

 中国の新疆ウイグル自治区での人権問題をきっかけに、自社や取引先の企業で起きている人権侵害リスクを把握し予防する「人権デューデリジェンス」の取り組みも始まっている。政府は今年9~10月に東証一部と二部の上場企業などを対象に調査を行ったが、約3割の企業が「実施方法がわからない」「予算が足りない」と回答している。

 人権という問題も日本企業になじみの薄いものだが、国際的な潮流の変化を前向きに受け止めるべきだ。「ビジネスと人権」で最も重要なのは「ディ-セント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」という概念だ。これを実現するためには労働条件の改善などが重要だが、本田由起・東京大学教授(社会学)は「1990年代以降、働き手に対する企業の扱いが過酷になっているのに、働き手側に、雇ってくれる企業にお任せの態度が広がってしまっている」と指摘する。そのせいだろうか、日本の働き手のエンゲージメント(仕事や会社に対する積極性や熱意)が国際的に見て著しく低いことが各種の国際調査で明らかになっている。

 働き手が仕事上の希望を実現するため企業に対して積極的に交渉しなければ、政府がいくら旗を振っても「賃上げ」は進まない。人権に配慮しつつ組織の活性化を図ることが、企業の成長、ひいては日本経済の復活につながるという発想の転換が必要だ。

 言い古された言葉だが、ピンチはチャンスだ。経済安全保障という制約を奇貨として、官民が協力して新たな成長戦略を構築すべき時代が到来している。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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