米中の板挟みは勘弁… 急浮上した難題「経済安全保障」は経済界にとって諸刃の剣
経済安全保障は「諸刃の刃」
政府はさらに来年の通常国会に「経済安保推進案(仮称)」を提出する方針だ。(1)特許の公開制限(2)サプライチェーンの強化(3)重要インフラの安全確保などが主な内容だ。米国は軍事転用可能な技術(人工知能や量子技術、半導体など)を中国に流出させないよう日本に重ねて要請してきた経緯がある。原材料や部品などの調達を中国に過度に依存する危険性もあり、日本はこれらの要求に応えなければならなくなっている。
岸田首相は先述のシンポジウムで「基本的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化を目指し、こうした分野に民間投資を呼び込んで経済成長を実現していく」と法整備の趣旨を語ったが、経済界は対応に苦慮している。経団連等の幹部は、「経済安全保障は規制の面が強く、企業は慎重にならざるを得ない」とのスタンスだ。木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは「経済安全保障政策の適用範囲をいたずらに拡大させれば、大きな弊害も生じてくる。そうしたリスクを減らすよう、法制化作業の中では慎重な議論が求められる」と釘を刺している。半導体など先端技術への政府の投資は経済成長にプラスだが、規制が強化されて自由な経済活動が阻害されては困る。経済界にとって経済安全保障は「諸刃の刃」なのだ。
「米国と中国の板挟みになるのは勘弁してほしい。米国に与することで中国という巨大市場を失ってしまう」との悲鳴も聞こえてくる。「経済情勢以外の面倒なことを考えずに経営に徹すればよい」というやり方に慣れた経営者が頭を切り換えることは大変だと思う。だが国際情勢は大きく変化しており、経営戦略を変えていかざるを得ない。「損害をどう防ぐか」という発想になりがちだが、どのような環境の中でもいかにして利益を上げるかを考えなければならない。
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