内調の桐島も仲間という意表を突く展開…未だ読めない「アバランチ」の意味を考察

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「覚せい」?

 一つの考察を書くと、アバランチとは市民たちを覚せいさせるという意味ではないか。権力の中枢にいるワルは一握りの人間では倒せない。羽生たちでも。だが、無数の市民を目ざめさせ、小さな怒りを大きくすれば、それが可能になる。つまり憤怒の雪崩を起こせばいい。

 羽生たちは弟1話から第4話まで大山の手先たちの悪辣ぶりをネット配信していた。これも市民たちを覚せいさせるプロセスの1つだったのではないか。

 羽生は第8話で大山に向かって、こう言い放った。

「いつか俺が、あなたがやってきたことに対して正当な罪を償わせてやる。死んでいった仲間の分、すべてな」(羽生)

 だが、打倒・大山は一筋ではいかない。藤田が実は生きており、しかも大山の手先だったことが分かる。同じ第8話でのことだ。

 逆に大山の腹心と見られていた内閣情報調査室の桐島雄司(山中崇、43)はアバランチを陰で支えていた。意表を突く展開だった。

「第1話から第5話までの一部の段階でこの筋書きを読めていた視聴者はいないはず」(同・脚本家)

 公安警察が自作自演のテロを起こす物語に対し「リアリティーがない」と指摘する声もSNS上にはあるようだが、これは過去、実際にあった。「菅生事件」(1952年)である。

 現代の暴力団組員を描いた映画「ヤクザと家族 The Family」(今年1月公開)などを撮り、ノンフィクションにも造詣が深い藤井監督はもちろん知っているだろう。

 事件当時の公安警察は共産党の勢力拡大を食い止めようと躍起になっていた。そんな折、大分県管生村(現・竹田市)で駐在所爆破事件が起こり、容疑者として党員5人が逮捕される。同党のイメージは大きく傷ついた。

 だが、真犯人は国家地方警察大分県本部警備課の公安警察官だった。本人が告白し、裏付けも取れた。Aは身分を隠し、同党の活動を調査していた。

 そして駐在所を爆破し、同党員の犯行に見せかけようとしたのだ。逮捕された5人は全員が無罪になった。

「アバランチ」は当初、クールな関係に見えたメンバーたちが、徐々に固い仲間意識でつながっていった点も群衆劇として面白い。

 第8話で大山はメンバーの1人である牧原大志(千葉雄大、32)の体に爆弾を装着した。市民の命を奪い、それを牧原の犯行に見せかけようとしたのだ。

 大山の目的はやはり世間の危機感を煽ること。自分が牛耳る日本版CIAの設立を目論んでいた。

 羽生らアバランチたちは命懸けで牧原の救出を図る。最終的には元警視庁爆弾処理班員の打本鉄治(田中要次、58)が牧原の体から爆弾を外し、さらに市民を傷つけないためにビルの屋上まで運ぶ。最初から爆死を覚悟していた。

 打本は爆弾を屋上に運ぶ途中、「メチャクチャ楽しかったぞ! いい仲間に出会えて良かった」と言い残す。無線で羽生たちとつながっていた。切なかった。

 屋上での最期の言葉は「良かった。誰もいねぇ…」。アウトローになった今でも打本には警察官の血が流れていた。

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