新庄が北海道とファイターズを一つにした伝説の夜 ストライキ明けに「ゴレンジャー」姿で登場(小林信也)
スト後に戦隊登場
2日間の空白のあと再開された9月20日、札幌ドームにはこの年最多4万2000人の観衆が詰めかけた。この年から札幌に移転した日本ハムファイターズが迎え撃つ相手はダイエー。不安と渇望が交錯するファンの大半は、いつもとずいぶん違う複雑な心のざわめきを抱えて客席に座っただろう。
そんな不安と緊張を一瞬にして吹き飛ばしたのが、試合前のシートノックだ。ファイターズのベンチから飛び出して来たのは、鮮やかな五色のマスクをつけた「秘密戦隊ゴレンジャー」だった。ひと目で新庄剛志とわかる先頭の黄レンジャーは高々と左手を突き上げ、何かを叫んでいる。続いて青の島田一輝、桃の石本努、赤は森本稀哲、そして緑の坪井智哉。5人はゴレンジャー姿でノックを受け、走り、投げて、スタンドを歓喜させた。
試合はダイエーが優位に展開する打撃戦となった。新庄は4回裏、新垣渚から反撃の狼煙をあげる22号ソロ・ホームランをレフトに打ち込んだ。日本ハムが3点差を追いつき、12対12で迎えた9回裏2死満塁で打席に入ったのが新庄だった。三瀬幸司の初球、143キロの直球を新庄は完璧にレフト・スタンドに弾き飛ばした。サヨナラ満塁ホームラン!満員の札幌ドームが、興奮と歓喜に包まれた。
ホームランでアウト
「新庄劇場」はこれだけで終わらなかった。
一・二塁間で、感きわまって待ち構えていた一塁走者の田中幸雄と新庄が抱き合い、そのまま大はしゃぎでクルリと1回転。これで新庄は「前の走者を追い越した」ためにアウトを宣告された。幻のホームラン。記録はヒット。三塁走者・奈良原浩の生還は認められ、サヨナラ勝ちは動かなかった。田中が謝ると、
「いいんです、何言ってるんですか、勝ったんだから」
新庄は笑い飛ばしたと日刊スポーツが書いている。
お立ち台で、新庄は満員のスタンドを指さして、高らかに叫んだ。
「今日のヒーローは僕じゃありません。みんなです!」
北海道のファンと新庄とファイターズが固い絆で結ばれ、名実ともに一体となったのはこの瞬間だったかもしれない。
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