銀座の老舗「文壇バー」が異例の移転 ママが語る「銀座事情」と「新しい試み」

国内 社会

  • ブックマーク

 今でも、やはり銀座のクラブと言えば、華やかなイメージがあり、注目を集めることが多い。長い歴史は明治期の「カフェー」に源流を求める説もある。ちょっとやそっとのエピソードでは驚かれない世界だが、さすがにクラブの“引っ越し”は前代未聞だという。

 ***

 銀座6丁目の「ザボン」は11月19日で旧店舗の営業を終了。22日から26日にかけて新店舗への移転を行い、29日に同じ6丁目の引っ越し先で再オープンを果たした。

「ザボン」の名付け親は、文化勲章を受章した小説家の丸谷才一氏(1925~2012)。来歴からも分かる通り、いわゆる「文壇バー」の系譜を持つ有名クラブだ。

 無事に引っ越しが終わり、営業を再開したことを祝い、“常連客”である人気作家が店内でサイン会を開いている。いかにも文壇バーらしい記念イベントだと話題になっているようだ。

 11月29日には林真理子氏、12月2日はノンフィクション作家の森功氏、12月8日は島田雅彦氏、12月13日は重松清氏──という豪華な顔ぶれ。

「ザボン」は引っ越し先が見つからず苦労を重ねてきた。デイリー新潮は2019年8月3日、「銀座の有名『文壇バー』が立ち退きを迫られ、移転先が見つからないワケ」の記事を配信している。

耐震基準に新型コロナ

 やっとのことで移転先を見つけた水口素子ママは「店を畳もうかと考えていた時期もありました」と打ち明ける。

「2018年に40周年を迎えたのですが、これを区切りに辞めようかなとも思ったんです。でも、周りの皆さんが『できる限り続けたほうがいい』と励ましてくださいました。心機一転の気持ちで頑張っていると、19年5月に不動産会社から『このビルを取り壊します』と連絡があったのです。もうびっくりしました」

「耐震基準を満たしていない」というのが取り壊しの理由だった。「できる限り同じ6丁目で引っ越し先を探そう」と骨を折ったが、なかなか物件が見つからない。

 翌20年2月になると、豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナの集団感染が発生した。あっという間に全世界に感染拡大してしまい、銀座の灯も消えてしまった。

 引っ越しどころか、店の存続にも不安を感じる日々。それでも執念で近くに引っ越し先を見つけ、内装を手がけ、再オープンを果たした。

「新しい『ザボン』は、ニューヨークの老舗バー『キング・コール・バー』の内装を参考にしました。高級ホテル『セント・レジス・ニューヨーク』の中にあります。名曲『モナリザ』や『スマイル』で知られるジャズシンガー、ナット・キング・コール(1919~1965)の名前を冠しています」(同・水口ママ)

次ページ:店を続けることが健康法

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。