一律50円運賃、ベビーカーシェアリング… 頼りない行政よりも先を行く鉄道事業者の子育て支援

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90年代から始まった保育所の取り組み

 JR東日本は、数ある鉄道事業者の中でも早い段階から子育て世帯へ着目してきた。例えば、1996年に中央線の国分寺駅に隣接するホテル内に保育所を初開設。その後も2000年に東京都足立区北千住で東京都認証保育所を、横浜市で横浜保育室を開設している。

 JR東日本が本格的に子育て支援に力を入れるようになったターニングポイントは2004年に埼京線の沿線に保育所を開設したことだった。東北・上越新幹線の建設にあたり騒音や振動といった問題を理由に埼京線の大宮駅-赤羽駅間の沿線住民からの反対が根強かった。

 当時の国鉄は、その対応策として線路脇に幅が約20メートルの都市施設帯という緩衝地帯を設置している。

 都市施設帯は地元自治体と協議して用途を決められているが、埼玉県戸田市から「保育所を開設できないか?」と打診されたことがきっかけになる。JR東日本は戸田市の要請を受け、埼京線の都市施設帯に保育所を開設。

 線路脇に誕生した保育所は、当然ながら駅に近い。そうした立地特性もあり、出勤前に子供を預け、退勤時に引き取ることができる。共働き世帯のニーズを捉えることに成功し、埼京線の沿線には保育所が次々と開設されていった。これを機に、JR東日本は埼京線を“子育て応援路線”と位置付けて保育所の整備に取り組んでいった。

 JR東日本が保育所を開設するという動きに、他社も追随。近年、鉄道事業者は地元自治体と連続立体交差事業を進めている。これらによって生まれた旧線路用地が、保育所として活用されてきている。

 鉄道事業者が取り組む子育て支援は、こうした不動産の遊休地活用で保育所を開設することにとどまらない。JR東海は、快適な移動空間という視点から子育て支援につなげようとしている。

子連れ専用車両を導入

 JR東海の稼ぎ頭は、なんと言っても東京と大阪の東西二大都市を結ぶ東海道新幹線だが、その需要はコロナ禍で大幅に低下した。

 コロナが完全に収束した後も、これまでの出張はオンラインで済ませられる可能性が高い。ビジネス需要が元の状態まで回復する保証はなく、JR東海は新たな需要の創出を模索した。

 そうした流れから、JR東海はこれまで好評だった子連れ専用車両を拡大する形で、東海道新幹線の最速列車「のぞみ」にも子連れ専用車両を導入することを決めた。

 未就学児童は長時間じっと座っていられない。走り回ったり、騒いだりする。それが周囲の乗客に迷惑をかける。

 このような懸念から、子育て中の父母を東海道新幹線から遠ざけてしまうかもしれない。子連れ専用車両はそうした子連れ移動でも気兼ねなく利用できる層を取り込むべくして生まれた。

 他方、ビジネスマンなどは子供が騒いでいる新幹線に乗りたくないと避けてしまうかもしれない。子連れ専用車両があれば、両者の事情を配慮した“共存共栄”が実現できる。

 前述したように、これまでにもJR東海は繁忙期の東海道新幹線に子連れ専用車両を運行していた。しかし、各駅停車タイプの「こだま」のみだったので、利便性が高いとは言えなかった。

「帰省利用が増える年末年始は、最速列車の『のぞみ』にも子連れ専用車両を拡大します。期間中は、毎日運行するだけではなく、1日の運転本数も大幅に増やします」(JR東海広報部東京広報室)

 鉄道需要の先細りは続くことが予想されるため、今後も鉄道各社の子育て世帯を取り込むべく、さまざまなアプローチを模索することになるだろう。

 今後も政府より先を行く、鉄道事業者の子育て支援策に注目が集まる。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

2021年12月12日掲載

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