自称「外交の岸田」は外交的ボイコットで苦慮 本音は「来年を考えてなるべく穏便に」

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煮え切らない岸田政権、「日米中三角形」論

 岸田政権の態度が煮え切らないのは、外交の要諦に「日米中三角形」論があるとの見方は根強い。岸田氏が率いる宏池会(現岸田派)の先輩である加藤紘一元幹事長が唱えていた論で、米国とも中国とも良好な距離を保つ外交政策を指す。外相を連続期間として戦後最長の4年8カ月間務め、近著『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社)には「外交・安全保障の分野では、私以上に経験豊かな政治家はあまり見当たらないと自負しています」とつづっている岸田氏。首相官邸主導で外交を進めるとの強い意欲は、逆に言えば官邸が見誤れば「日本丸」そのものが座礁しかねないリスクも負う。

 9月の自民党総裁選で「権威主義的・独裁主義的な体制が拡大している」と中国を批判していたものの、11月10日に発足した第2次岸田政権の外相には日中友好議員連盟会長を務めた「親中派」の林芳正衆院議員を起用。中国の香港や新疆ウイグル自治区での人権問題をにらみ、人権侵害救済法(日本版マグニツキー法)の必要性を唱えてきた中谷元衆院議員を首相補佐官に抜擢してはいるが、同法制定を当面見送るなど「弱腰」ぶりが目立つ。

 中国の女子テニス選手、彭帥氏の安否不明問題で国際社会の批判が高まる中、岸田首相は12月6日の所信表明演説でも「中国には、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、共通の課題には協力し、建設的かつ安定的な関係の構築を目指します」と述べるにとどめた。人権問題を重視し、国益をかけて外交ボイコットを決定した米国との温度差は否めない。女子テニス協会(WTA)が中国での全大会を中止すると発表したスピード感ともあまりに異なる。

「岸田首相の基本スタイルはなるべく穏便に、ということ。最終的に外交ボイコットを日本が決断するにしても、中国もメンツが立つプロセスを考えるでしょう。来年は日中国交正常化50周年を迎え、その節目をいさかいの年にはしたくないとの思いが強いですから」(外務省幹部)。

 とはいえ、臨時国会の焦点は「文通費問題」から一気に外交ボイコットをするのか否かに移った。中国の人権侵害を問題視してきた自民党議員にも「首脳や閣僚、政治レベルが参加することはいいメッセージにはならない」(佐藤正久外交部会長)との声が広がる。保守系議員は臨時国会で対中非難決議を採択するよう与党に働きかける動きも見せており、岸田氏がさらなる「弱腰」ぶりを示せば来年夏の参院選前に政局に発展しかねない状況だ。

「我が国の未来は、現在を生きる、我々の決断と行動によって決まります。共に、次の世代への責任を果たし、世界に誇れる日本の未来を切り拓いていこうではありませんか」。岸田首相は所信表明演説をこう締めくくったが、どちらにも良い顔を見せる外交姿勢では国際社会の信用を得られないことも未来への責任として知るべきである。

小倉健一(おぐら・けんいち)
イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒。国会議員秘書からプレジデント社入社。プレジデント編集長を経て2021年7月に独立。

デイリー新潮編集部

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