元ヤクザがフィリピンのスラム街で困窮生活…衝撃のドキュメンタリー「なれのはて」監督インタビュー
この人たちはオレだ
「彼らを取材しようと思ったのは、2011年に出版された水谷竹秀さんの『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』を読んだのがきっかけでした。自分もフリーで仕事をしているので、半年も仕事をしなければお金が尽きてしまう。だから、“この人たちはオレだ”っていう、自分と近いものを感じ取ったんです。
その翌年、ドキュメンタリー番組の企画になるかもしれないと自費でフィリピンに行き、マニラ新聞の日本人記者に困窮者を紹介してもらいました。それが嶋村さんです。そこから伝手をたどっていろんな人にお会いしたのですが、『顔を出すと殺されます』と撮影を拒否されたり、2回目に会いに行ったら行方知れずになっていたり、最後まで取材は難しかったですね」
粂田監督はそれから2019年まで20回、フィリピンに足を運び、1回に10日から2週間ほど滞在して取材を続けた。生々しい画面からは、マニラの喧噪や立ち込めている臭気までもが伝わってくるようだ。
「途中から番組の企画ではなく、自分の気の済むまで取材しようという気になりました。マニラの貧困層が住むところはカオスのような状態で、人の欲望もむき出しです。例えば、音楽を聴きたいって思ったら、フルボリュームにする。隣人もフルボリューム。この人たちは耳がおかしいんじゃないかなって思うほどでしたが、日本に戻ってくると静かで清潔な街並みから拒絶されているように思えて、妙にあの猥雑な空間が懐かしくなりました。
日本社会ではじきだされた日本人たちがスラム街の人々に騙されたり支えられたりしながら、経済的にどん底でも生活していけるのは、そんなところにも 理由があるかもしれないと思えました」
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