出光興産、創業者「出光佐三」が掲げた民族経営、「日章丸事件」と裁判所での歴史的大演説

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創業家の反乱は収束

 最大の懸案は統合に反対してきた出光創業家の処遇だった。創業家側からは、名誉会長・出光昭介の長男・正和が非常勤の取締役に就いた。加えて、創業家の顧問弁護士である久保原和也が社外取締役に入ったことは既に書いた。創業家は経営監視の目を光らせる。

 正和は創業家の資産管理会社・日章興産の社長。日章興産は出光株の13.04%を保有する筆頭株主だった。経営統合によって持株比率は8.98%(以下19年4月1日時点)に下がったものの、依然として筆頭株主だ。創業家では公益財団法人出光文化福祉財団が4.10%、公益財団法人出光美術館が2.64%、宗像合同会社が1.64%を保有する。

 昭和シェルの筆頭株主のサウジアラビアのアラムコ・オーバーシーズ・カンパニー・ビー・ヴィが7.65%を持つ第2位株主。民族系にこだわる創業家は外資が入ってくることに強く反対したが、創業家からの役員就任と引き換えに外資系の昭和シェルとの統合を最終的に受け入れた。

IHIとアンモニア供給網を構築

 出光興産は事業再編に取り組む。IHIと共同でアンモニア供給網を構築する。出光の徳山事業所(山口県周南市)の貯蔵施設や石油化学装置などの既存設備を活用。アンモニアの輸入基地化や、ナフサ分解炉でのアンモニア混焼実証を検討する。近隣事業所へのアンモニアの供給も視野に入れている。

 政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)実現に向け、アンモニアの需要が拡大するのを商機と捉えている。

 一方で、子会社で太陽光パネルメーカーのソラーフロンティア(東京・千代田区)は、2022年6月を目処にパネル製造工場である国富工場(宮崎県国富市)での生産を中止し、太陽光パネル光の生産から撤退する。

 国富工場は2011年、当時としては世界最大級の太陽光パネル製造工場として建設された。競合する中国企業が安い太陽光パネルでシェアを伸ばしており、苦しい経営状態が続いていた。

 昭和シェルとの経営統合後の出光の株主構成(21年3月期末)は、創業家の資産管理会社・日章興産が9.10%で筆頭株主。出光文化福祉財団が4.16%、出光美術館が2.69%を保有しており、出光創業家が大株主であることに変わりはない。

有森隆(ありもり・たかし)
経済ジャーナリスト。早稲田大学文学部卒。30年間、全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書に『日銀エリートの「挫折と転落」――木村剛「天、我に味方せず」』(講談社)、『海外大型M&A 大失敗の内幕』、『社長解任 権力抗争の内幕』、『社長引責 破綻からV字回復の内幕』、『住友銀行暗黒史』(以上、さくら舎)、『実録アングラマネー』、『創業家物語』、『企業舎弟闇の抗争』(講談社+α文庫)、『異端社長の流儀』(だいわ文庫)、『プロ経営者の時代』(千倉書房)などがある。

デイリー新潮編集部

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