事業承継サイトで跡継ぎなき会社を救う――大山敬義(バトンズ社長兼CEO)【佐藤優の頂上対決】
会社の「出口」を作る
佐藤 これまでにどのくらいM&Aが成立しているのですか。
大山 3年で1320件ですね。
佐藤 どんなケースがありますか。
大山 例えば、広島県尾道市の「後藤鉱泉所」です。昭和5年(1930)創業で、尾道の対岸にある向島(むかいしま)でラムネやサイダーを作って、現地だけで売っている会社でした。昔ながらの製法なのですが、新しい機械を入れなかっただけともいえます。普通に考えたらM&Aの対象にはなりません。でもいまは古い製法、技術、機械を使って「ここでしか飲めない」というのは売りになる。
佐藤 地ビールと一緒ですね。
大山 70代後半の夫婦が経営していましたが、子供が継がなかった。それでバトンズでマッチングして地元の44歳の公務員が引き継ぐことになりました。地元の町おこしにいいと考えたんですね。そしてインスタグラムやフェイスブックを使って売り出したら、どんどん売れるようになった。いまは地元のレモンを入れた新商品「怪獣サイダー」も出しています。
佐藤 これはネット通販の時代ならではの成功例ですね。
大山 そうです。いまの時代だからできる。本来、サイダーは儲からない商品の典型で、規模の大きなビバレッジ会社も次々潰れたり、大手に買収されていったんですね。だからこれは衝撃でしたね。
佐藤 通販が新しいビジネスモデルを生み出したわけですね。
大山 もう一つ例を挙げると、30歳の看護師が、憧れの仕事だったウエディングドレスの貸し出し店の経営者になったケースがあります。東京で事業をしていた創業者が出身地の大阪に帰ることになったんですね。新しい経営者はサイズの幅を広げたり、撮影スタジオと提携してドレス姿の写真を撮るサービスなども始め、コロナ禍の逆風の中でも前年並みの売り上げを確保したそうです。
佐藤 みなさん、資金繰りはどうされているんですか。
大山 ある程度自己資金があるのはもちろんですが、いまは国が補助金を出すようになっています。令和2年度の第3次補正予算に入って、今年から本予算化しました。政策金融公庫を通じて、1回あたり250万円まで出ます。このささやかな額から見ても、大きなM&Aとは別世界ですよ。
佐藤 買収して成功する人もいれば失敗する人もいますね。うまくいかないのは、どんなタイプですか。
大山 これははっきりしていて、「再現性のない人」です。スモールビジネスは自分ができることをやる。事業によっては、工場や従業員も引き継ぐわけですが、人頼みではダメで、自分でマネージメントしないといけない。その点も起業と同じです。
佐藤 少しお金があるから買ってしまい、自分は深く関わらず元の会社の体制に任せて儲けよう――という考えではダメだということですね。当事者意識がなければいけない。
大山 大きな会社なら資本金を出すだけですみますが、スモールビジネスは自分が当事者です。たとえ中心人物がいなくなっても、そのノウハウさえ引き継げば自分でできる、という人がやらなければ成功しませんね。
佐藤 そうすると、マッチングでは人柄を見るということも重要になってくる。
大山 もちろん重要ですが、そもそも売り手に対して買い手が多いので、選別されます。だいたい売り手1に対し、最初の1カ月くらいだと買い手は11.6なんですね。ライバルが10社いる。だからマーケット原理ではじかれるという面もあります。
佐藤 大会社と違って、相手がよく見えますからね。
大山 また売り手も、小さな会社ほど思い入れが強い。自分で汗水垂らして一所懸命に作ったわけですから、「この人はちゃんと継いでいけるのか」と、すごく厳しい目で見ます。この業界では、親が娘を嫁に出すようなもの、とよく言います。
佐藤 この事業はどんどん大きくなっていきそうですね。
大山 5年後には、6万社といわれているM&Aのマーケットのうち、2万~3万社を扱いたいですね。誰でもM&Aができるようになると、会社も作りやすくなります。M&Aという出口を作ることで、会社を売るのが当たり前になるし、失敗しても半分だけ売ることだってできるようになる。そうすると会社の新陳代謝が進みます。冒頭でもお話ししたように、これから10年で日本の381万社のうち245万社が代替わりします。つまりすごく若返る。これは日本にとって大きなチャンスです。これを失敗させてはいけない。その若返りのお手伝いをしていくのが弊社の役割だと思っています。
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