事業承継サイトで跡継ぎなき会社を救う――大山敬義(バトンズ社長兼CEO)【佐藤優の頂上対決】
スモールM&Aと起業
佐藤 バトンズで扱っている会社はだいたいどのくらいの値段で買えるのですか。
大山 3千万円以下が93%、1千万円以下は70%です。そして私どもの手数料は、最低25万円です。
佐藤 サラリーパーソンでも少しお金がある人だったら、手が届く金額ですね。ただ、会社を買っても、きちんと責任を持って経営していかなければなりません。
大山 その通りです。この仕事を始めてみると、いままでの大きなM&Aとは全く違う傾向が浮かび上がってきました。スモールM&Aは、いわゆる起業とか独立といったものにすごく近いんです。大きなM&Aは会社対会社になり、一緒になったときのシナジー(相乗)効果を第一に考えて、時間をかけて行います。でもスモールM&Aは経験がなかったり、まったく違う分野で仕事をしていた人がいきなり買うんですね。
佐藤 それは簡易版の起業ですね。
大山 日本人は、ゼロから1にするのは苦手ですが、0.1から1にしたり、0.5から1.5にするのは得意で、その能力も高いんですよ。だから先代がやってきたものを引き継いで、それに磨きをかけてよくすることがうまい。
佐藤 基礎工事ができているところに建物を建てていく感じですね。
大山 あるいは建物のリニューアルです。ラーメン店を作るにしても、最初の形を作るまではすごく大変です。原価をいくらにして1杯の値段をどう設定するか、回転率はどのくらいになるか、ロスはどれだけ出るかなど、さまざまなことを考えなくてはいけない。でもそこに店があれば、原価を抑えたり、回転率を上げれば、どのくらい利益率がよくなるかは、簡単に見えてきます。
佐藤 作家でも、書き始める前の構想メモを作るほうが大変で、ものすごく時間を使います。最初の1行が出てくれば、自動筆記のように書けてしまうのですが、そうでないと書き進められない。
大山 同じですね。それに、そこに店があって、こうしたら儲かるんじゃないかと考えるのは、楽しいですよね。そう思える人がどんどんやってきたんです。
佐藤 大企業の社員でも公務員でも、7~8年仕事をしていれば、その組織の中でだいたいどの程度までいけるかわかります。すると何か他の事をやってみたくなる。そういう気持ちは多くの人が持っているでしょうね。
大山 ええ、これまでチャンスがなかっただけで、別のビジネスがやれるとわかったとたん、どんどん表に出てきた感じです。それがこの1~2年の動きだと思います。
佐藤 買い手はけっこう若い人たちですか。
大山 かつてのM&Aだと、買い手はだいたい60歳くらいの円熟した経営者たちでした。でもバトンズでは、平均で40~45歳と、15歳くらい若い人たちが買っています。また数で一番多いのは30代です。
佐藤 逆に考えれば、いまの30代はこのまま安定した形で定年まで勤め上げたり、同じ仕事ができるとは思っていないんでしょうね。
大山 そうかもしれません。それから買い手の3割くらいは女性です。女性は年を追うごとに増えている。
佐藤 つまり彼女たちは経営者になっていくのですね。
大山 そう、それが素晴らしい。
佐藤 買い手は個人ですか。
大山 74%ほどが法人で、残りが個人です。法人といっても大小ありますし、個人も財閥の一族から学生までいます。だから単純に企業経営者とかサラリーマンといった区分けが当てはまらないところがあります。
佐藤 企業が買う場合も、新規事業をゼロから作るよりは効率がいい。
大山 コロナなどで先行きが見えない中、大企業が多角化のために他業種をM&Aすることも増えてきました。もともと0.1あるんだったら、部下にやらせてみようということで、続けて何社も買う会社もあります。
佐藤 この仕組みを企業は企業なりに利用している。
大山 売りに出た会社を自分たちの力で強くして、バリューアップする。これが流行りつつあります。いままでこういう買い方ができたのは、ファンドだけだったんですよ。
佐藤 これによって新しい企業グループを作ることもできるかもしれない。
大山 そうした動きもあります。例えば飲食店だけをどんどん買って、それを二つ星とか三つ星のレストランの有名なシェフに監修させる。そうやってバリューアップさせて、最後は合体してIPO(新規株式上場)まで持っていくというスキームが考案されています。これはプライベートSPAC(特別買収目的会社)と言って、アメリカにはありましたが、日本にはなかった形態です。いまそれを目的とした小さなファンドみたいな会社がたくさんできています。
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